報告 西オーストラリア南部2500kmピコタン一人旅

福田

 昨年9月から半年間、オーストラリア、パース郊外の町Wannerooで修行中である。
大学は、11月最終週から2月の2週目まで長期のホリデーになっており、年末にかけて日に日に人気がまばらになっていく。
私は年末年始をどう過ごすのかしらん・・・実は、こちらに来てちょうど1か月が経った10月16日(月)の朝、右脚を“カンガルー”に蹴飛ばされ、クラッチとブーツの生活になってしまった。
2か月経ってもピコタン歩きしかできない。この足ではどこに行っても面白くない。しかし、アパートで一人年末年始過ごすのも寂しい・・・周りの人のつぶやきと後押しで、いろいろ考えた末、西オーストラリア南部を一人旅することにした。
【1月2日:1日目】
Wanneroo ~ Caversham Wildlife Park ~ Perth ~ Wanneroo
 今日はパース市内までレンタカーを借りに行かなければならないが、その前に動物園に行くことに。
オーストラリアは3度目だが、生コアラを見ていないので訪れることにした。
Wannerooを8:30に出発。バスを2回乗り継ぎ、さらに30分歩いて(バス停から歩いている人は私の他に誰もいない・・・)ようやく10:30 Caversham Wildlife Parkに到着。
バスの乗り換えの時に反対方向のバスに間違えて乗ったり、降りるバス停を間違えたり(2度も)[トランスパースのバスは、行き先の車内表示無し、もちろんアナウンス無し、そして停留所の半数が土木現場の杭のようなものに数字が書いてあるもの。
慣れない人にとって、動体視力が試される。加えてこの日の気温は37℃で、ヘロヘロ。このあと続く一人旅の波乱の幕開けか・・・入場料を払い中に入る。
日本語があちらこちらで飛び交う。入園者の半分は日本人観光客なのではないだろうか。この暑さで多くの動物たちは木陰に引っ込み姿が見えない。
“コアラとの写真撮影”、“羊の毛刈りショー見学”、“ウォンバットとの写真撮影”だけはしっかりおさえて、動物園をあとにする [この年になって、しかも新年早々一人動物園をするとは想像もしてなかった(^^;]。
 パース市内まではまた30分歩いて、バスと電車を乗り継がなくてはならない。
バス停まで朝と同じ道をピコタン歩きはじめた。暑い(@@;) しかし、5分もしないところで、一台の車が私を抜いたかと思ったら路肩に停まり、運転席から男性が・・・「こんな暑い中、歩くなんて・・・乗りなさい」・・・と言っていたと思う。
“知らない人の車には乗ってはいけません!”と子どものころ言われた言葉が頭の片隅をよぎるが、暑いわ足は痛いわで、思わず「良いんですか!?」
・・・車の中には奥さんと娘さん2人が乗っていたので、拉致はされないだろう!と、安心して乗り込み、バス停まで送ってもらう[とてもうれしかった。ありがとう!(T-T)]。
おかげで予定より早くパース市内に着くことができ、レンタカーを借りる。オーストラリアで初の運転。
しかも、この3か月運転していない。今日は一旦アパートに戻って、明日から南下する予定。
運転になれるために、インド洋を眺めながら海岸線をドライブする。バーンズビーチでインド洋に沈む太陽を見ながら、この旅の無事を祈る。
明日からの長旅の準備をして早めに就寝。本日の走行距離60km。
【1月3日:2日目】
Wanneroo ~ Manjimup ~ Mount Frankland National Park(NP) ~ Walpole-Nornalup NP ~ Denmark(泊)
 Wannerooを6:00 出発。今日は、一気に南極海に面するDenmarkまで南下しなければならない。
ちょっとドキドキしながら、ハイーウェイにのりパース市内を抜けると、ビルはなくなり、路肩は赤土の道路に。
いつの間にかハイーウェイは一般道になっているが、制限速度は110km/h。まずは、ManjimupにあるDiamond Treeを目指す。10:50到着。
高さ52mのカリーの巨木に鉄の杭が木を取り巻くように取り付けてあって、ほぼ垂直に展望台まで登れる。
昔は火事を見つけるための見張り台だったらしい。
下から眺めるだけの人もいるが、やはり登らないと・・・でもここで落ちたらしゃれにならない、「一歩一歩、三点支持三点支持」と山上さんの顔を思い出しながら、呪文を唱えるように登った[翌日、腕と肩周りが筋肉痛だった]。
展望台からの眺めは木木木。どこまでも木木木。
次の訪問地はMount Frankland NPの展望台、NP入口のインフォメーションセンターに立ち寄って聞くと、「今日はブッシュファイアーのため閉鎖です!明日も、分かりません。」と。
こちらでは、本当のブッシュファイアーが一旦発生すると被害が甚大なので、レンジャーが火事を起こして防火帯を作る。今日のブッシュファイアーもそのプロテクションファイアーだったようだ。
スキップしてWalpole-Nornalup NPの巨大なティングルの森を目指す。
幹線道路から左折すると、突然未舗装の赤土道路。「ゆっくりゆっくり」とつぶやきながら、たどり着く。
世界最大の周囲24mのTingle Treeは根元が大きく空洞になっている。他のどの木も巨大である。
この次は、Valley of the Giantsのツリートップウォーク。15kmほどしか離れていないので、すぐに着くだろうと思いきや、そうは簡単にはいかない。
制限速度が110km/hの道路では常にあおられ気味。このときもあっという間に4WDの車にピタリと後ろにつかれてしまい、気にしながら走っていたら、左折しそこねてしまった[気がちっちゃいな?]。
ループ道路になっていたので、結局3kmほど先から左折してくる?っと廻ってようやくたどり着く。
ツリートップウォークは、レッドティングルという巨大なユーカリの原生林の高さ40m付近に取り付けられている。
木々の間を通る風に吹かれながら、原生林の上部を歩くのは爽快であった。
その後地上に設置されている、エンシェント・エンパイア・ウォークというボードウォークを歩き、巨木の幹を観察した。オーストラリアは木もデカい!この日の総走行距離は580km。
【1月4日:3日目】
Denmark ~ William Bay NP ~ West Cape Howe NP ~ Torndirrup NP ~ Albany(泊)
 この旅のなかで一番移動距離が短い日である。
8:00にホテルを出発、20kmほど昨日来た道を戻る。William Bay NPのグリーンプールとエレファントロックを訪れる。
巨大な岩がビーチを囲むように点在し、自然のプールを作っている。波静かで海水浴には絶好の場所とあり、朝から多くの人が集まっている。
長袖・長ズボン、トレッキングシューズ、背中にはデイパック姿の人間は私以外誰もいない[そりゃそうでしょう。ちょっと視線が気になる]。
朝方で曇りのため名前ほどのグリーンにはなっていなかったが、海風に当たりながら岩場を1時間ほど散策した。
次は、West Cape Howe NPのシェリービーチに向け移動。幹線道路からNPに続く道に右折すると、まもなく未舗装の赤土道路になる。
案内板はほとんどないし、土埃はすごいは、凸凹道。え、ホントにNPに行く道なの?ここでパンクしたらどうなるんだろ?30分ほどトロトロ走り、ようやくシェリービーチに到着。
青い海に、白い砂浜。空を見上げるとカラフルなパラグライダーが気持ちよさそうに飛行している。先ほどまでの運転による緊張から解放される。
崖の上まで車を移動させ、パラグライダーに遊ばれている初心者と思われるおじさんをしばし見学。
また赤土の道路と格闘しながら、次なるTorndirrup NPに移動。
ここには、ザ・ギャップ、ナチュラルブリッジに代表されるように花崗岩でできた海岸線が激しい波と風によって浸食された、絶景が広がっている。
このNPは南極海に突き出た半島に位置している。その東の突端までBad Headという往復12.5kmのトレイルが伸びている。
この旅を計画し始めた頃は、なんとかここを歩けないものかといろいろ調べた。
あるAZガイがあげていたブログを読むと、その中に「We had a plenty of fresh snakes on the trail.」の一文を発見。たくさんいる上に、フレッシュ!?どんなニョロちゃんなの!?フレッシュじゃないニョロちゃんってどんなの!?もうこの時点で却下!
・・・しかし、半島を見渡せるFrenchman Bayに面する砂浜がきれいなビーチを訪れ、景色を眺めていると、Bad Trailがある半島の付け根の高台に人影を発見。もう気持ちを抑えられず、そのトレイルのとりつき地点まで車を走らせる。
途中一台のレンタカーとすれ違う。さっきの人たちに違いない!
200mほど進むと空き地があり車を停める。ニョロちゃん出てくるなよ?出てくるなよ?と祈りながら、見晴らしの良いところまで上っていった。
往復で40分くらいの短い歩きではあったが、半島の反対側の海岸線も見渡せて、一人ご満悦。もう、今日はおなかいっぱいに海を見たのでホテルへ。と、思いきや、途中Wind Farmの標識が目に入る。
そう言えば、誰かのブログに「結構良かった!」って書いてあったことを思い出し、急遽立ち寄ることに。
風力発電用の巨大なブレードが12基、ビュンビュン音を鳴らして廻っていた。青い海と空、白いブレードのコントラストがとてもきれいだった。
今晩の宿泊地Albanyへ。なんだかんだいって、この日も200km走った。
(次号に続く)
(前号から続く)

福田

西オーストラリア南部2500kmピコタン一人旅(前号からの続き)

1月5日:4日目】
Albany - Porongurup NP - Stirling Range NP - Esperance(泊)
 8:00出発、今日の午後は500kmのドライブが待ち受けている。
まずは、Porongurup NPのグラナイト・スカイウォークを目指す。キャッスルロックという奇岩の上に歩道が設置されており、そこまで片道1.5kmほどのトレイルがのびている。
ピコタン歩きの私は次々に追い越されていく。トレイルは整備されているものの、いわゆる登山道で日本だったらほとんどの人がトレッキングシューズを履いて歩くような道なのに、こちらの人はビーサンに短パン、ランニング姿の人も珍しくない。
マンウォッチングをしながら歩く。そう言えば、いろんな生き物に遭遇しているのにニョロちゃんには出くわしていないな?このまま出てこないでくれ?と願っていると、ゴソゴソという音が・・・まさかっ!、
登山道の真ん中にニョロちゃんではなく巨大トカゲが出没!え?、なんで?。こちらを向いていないので、襲ってくる気配は感じないが、ちょっと音をたててもその場から立ち去ろうとしてくれない。


オオトカケ?

そのまま、進む勇気もないし、とりあえずカメラを出し写真を撮って、誰か来てくれないかな?と2、3分その場でウロウロしていると、下から4人家族が。先頭を歩いていた男の子は、トカゲをみて一瞬躊躇したものの、お父さんの「大丈夫だ、行け!」の言葉とともに進むと、トカゲもブッシュの中に。


バランスロック

 私も急いで彼らのあとを追い無事通過[良かった?ありがとう]。大きな岩をすり抜け、はしごを上っていくと、スカイウォークにたどり着く。
 ここからは、だだっ広い荒野、北側にはスターリング山脈が連なっている姿がみえる。
やっぱ、広いわ?。しばし景色を堪能し、下ることに。続々上ってくる人たちがいる。
やはり皆軽装である。ふと、ある4人家族の最後尾を歩く女性の足下に視線を落とした。
短パンからでている脚と足の色が同じである???ビーサンを履いているの???いや、いや、いや、ナントは・は・は・裸足!足の裏どうなってんの?二度見をしてしまった。


ブフノール山

 今日の最後の訪問地は、Stirling Range NPである。
西オーストラリアで一番標高の高い山ブフノール山(1095m)がある。
標準コースタイムが往復で3、4時間ぐらいと手頃な山である。渡豪した当初は、この山だけは登ろう!と思っていたのだが、ピコタン歩きでは登ることはできても下りが厳しい。今回は下から眺めるだけ?。
 下りてきた親子に「頂上まで行ったんですか?」って聞いたら「うん。行ってきたよ?最高だったよ?」って。いいな?悔しさを押し殺して、後にする。
さて、ここから今日の宿泊地エスペランスまでは約450kmのドライブである。


どこまでも続く

念のためにGoogle Mapに目的地を入れて経路を調べると、「そのまま道なりに175km走って、○○ストリートを左折!」の表示が・・・「はぁっ!?」路肩は赤土、まっすぐ伸びる道、見渡す限りブッシュ、ときおり牧草地!
 すれ違う車はまれだが、トラックは島原鉄道の車両より長いどでかいヤツ。風圧に恐怖を抱きながら必死にハンドルを握ってやり過ごす。
時々、道ばたに姿を現しているカンガルーをみてホッとする。途中、カンガルー一頭と先ほど見たオオトカゲ一匹が道路を横断。
100km/hで走っているとよける方も身の危険を感じる。車に注意して渡りなさいよ?
Stirling Range NPを出発してから約5時間。ようやく19:00にEsperanceに到着。この日の総走行距離540km。
1月6日:5日目】
Esperance - Cape Le Grand NP - Esperance
 今晩もエスペランス泊なので気が楽。ホテルを8:00に出発。今回の旅の中で、一番楽しみにしていたCape Le Grand NPのフレンチマンピークをめざす。


フレンチマンピーク

標高262mしかないが一枚岩の山で、平坦なこの地では相当高くみえる。
ピコタン歩きの私にとって、今はこれがやっとである。ガイドブックには往復1〜1.5時間と書いてあるが、ゆっくりゆっくり1時間半かけて登った。
ちょっと曇っていたが、頂上には360°大パノラマが私を待っていてくれた。


フレンチマンピークより

ほんとにだだ?っぴろい乾燥した大地。所々に、丘のようなものが突き出て、彼方には青い海岸線が。
登ってきてよかった?。下りは、上りより慎重に慎重に下る。


ラッキーベイビーチ

次なるは、ラッキービーチ。これまでもたくさんきれいなビーチを見たが、最高!!
思わずサンダルを脱いではだしでビーチをピコタン歩く。真っ白な砂浜にブルーの海、そして青空。
 う?ん最高!!まだ12時。このあと長い移動がないので、どこか歩きたいなぁ?と思っていたところに、トレイルの案内板を発見。


ヘリテージトレイル海

ラッキービーチからとなりのビーチまで伸びているHeritage Trailを歩くことに。一方に青い海、一方に朝登ったフレンチマンピークがみえる。


ヘリテージトレイル花

途中、青い海を見ながら非常食として持ち歩いていたカップ麺を食べる。いや?格別の味だった!隣のビーチがみえるところまで行って、引き返した。
気持ちよかったぁ?。
ホテルに戻ったが、まだ3時。一息ついたあと、もったいないので、海岸線のビュースポットをめぐるEsperance - Great Ocean Drive - 40kms loopをドライブし再びホテルに戻る。
今日も、オーシャンビューでおなかいっぱい。この日の総走行距離は200km。
1月7日:6日目】
Esperance - Hyden
 今日からいよいよ、北上。
8:00出発、昨夕ドライブした際にチェックしていた、Wind Farm、Great Ocean Trailの一部を歩き、一旦Esperanceの市街地まで戻って、今日の宿泊地Hydenに向かおうとしていたら、○○Lookoutの看板発見。ウィンカーを出して右折。
数人の観光客が展望台から景色を眺めている。車を降りると、3kmほどのトレイルがあるとのこと。歩かないで帰るわけにはいかない。これが大正解だった。
昨日の夕方、今朝ドライブした海岸線を一望できるコースだったのである。40分かけてEsperanceの景色の見納めとした。
さて、次なるはウェーブロックがあるHydenまで390km。単調な道が続く。途中からFlooded Roadの看板がでてくる。
辺りを見回すと涸れた湖の底を走っているようである。雨季、あるいは激しいシャワーのときは浸水するらしい。通行する際、ご注意!4時間かけて到着。ウェーブロックは有名な観光地である。


ウェーブロック

ハイデンロックと呼ばれる花崗岩の北側の一部の面が風、砂、雨、熱によって侵食され、高さ15mもの巨大な波のオブジェを作り出している。
 端にある階段からその上に上り、広大なすばらしい眺めを見ながらトレイルを歩く。その後、カバがあくびをしたような形の巨岩ヒッポーズヤーンを見に行く。今晩の宿は、すぐ近く。この日の総走行距離は450km。
1月8日:7日目】
Hyden - Perth
 今回の一人旅も最終日である。
8:00出発 Wave Rockから15kmほどのところにある、アボリジニの壁画が残るマルカ洞窟をめざす。
またまた途中から赤土の未舗装道路。もう慣れたものである。20分ほどで到着。
早朝のためか、壁画以外一般人にとって興味をそそられるものがないためか、駐車場には1台の車もない。洞窟を覗く。3分で終了。
ここにも簡単なトレイルがある。車上荒らしに遭ったらどうしよう一抹の不安を抱えながらも、歩き出す。
広大な農地を見ながら、誰?もいないトレイルを小1時間楽しんだ。
あとはパースに戻る途中のヨークという街に立ち寄るだけである。
西オーストラリア内陸で最も古い町で、ナショナルトラストに指定された英国風の古い建物が多く残っており、歴史的価値のある古い建物を見て回るのがこの町での観光の仕方である。
しかし、街に入ったとたん明らかにこれまで私が目にしてきたものとは異なる光景が。一気に息苦しくなり、興味は消失。ガソリンだけ補充し、まったく観光をすることなく後にする。
ここから100kmほどでパースに到着。無事にレンタカーを返し、一人旅は終了した。
この日の総走行距離は400km。

 1月2日のカバシャムワイルドパークから始まった一人旅は無事に終わった。
総走行距離、2430km。鹿児島最南端「佐多岬」から北海道最北端「宗谷岬」まで直線距離で1888kmということで、よく走ったと我ながら感心する。
当初は2500km近く一人で運転できるのかな?、ツアーで行った方が良いかな?、けどピコタン歩きでは皆に迷惑をかけそうだし、予定されているコースを歩けなかったり、お留守番をするハメになると楽しくないしな?とあれこれ思い、一人旅を決断。
ドキドキはしながらも、自分のペースで自分の好きなところを訪れて歩くことができ結果的には良い旅ができたと思う。
オーストラリアの国土は日本の27倍あると言われているが、パースからWA南部を廻っただけでも、十分にその大きさを実感することができた。
 オーストラリアの最高峰はキャンベラから200kmほどのところにあるコジオスコ山で、標高は2228mと、山岳会の皆さんにとってあまり魅力のあるところではないかもしれない。
しかし、パース周辺はいたる所にトレイルがあり、雨季の7月?11月にはWildflowerが咲き乱れる。
高い山を登り尽くしたという方は、この時期を狙って、花に囲まれたトレイルをのんびりと歩くのも良いかもしれない。