個人山行  燕岳~大天井岳~常念岳  

~153歳コンビが往く表銀座~

伊達 栄

 4月、Bさんより「表銀座コースを歩きたい。」旨連絡を戴く。3月に心臓の手術の後経過を見ながら「7月、最終的に決めたい。」との事。半信半疑ながら、「トレーニングをしながら吉報を待っています。計画はお任せします。」と返答。
7月になり、「経過は順調、体力もまずまずで8月下旬頃にします。」と連絡があり、最終的に日程は8/26~8/29に、ルートは有明荘から入山、燕岳、大天井岳を経て常念岳の登り、一ノ沢下山と決定。
 相手は病み上がりの後期高齢者、そう言う私も同様で「大丈夫かいな?」と不安にもなったが、お互いこの年になると一日いちにちが加齢との闘いで頑張っていくぞ!と性根を据える。
 トレーニングは折からの猛暑なので早朝散歩、ジョギングと近郊の山登りと決めた。
友達の田んぼの法面の草刈りも良いトレーニングになると思った。
連日の猛暑で日中はトレーニングどころではない。幸い無料のアリーナのジムに週2回通っているので、そこでの内容を登山仕様にして頑張ることにした。
ザックの軽量化は頭の堅い爺の苦手とするところ、結局12kgに絞りこむのがやっと。(結果的には非常食
を削ればもっと抑えられた。)
 8月25日(月) 新幹線と飛行機で松本に入り、安曇野のホテルに1泊。
 8月26日(火) 早朝5:30のタクシーで有明荘まで行き、6:30、登山開始。
久しぶりの合戦尾根、ゆっくりペースで歩く。天候は時々霧の湧く曇りで雨が降らないだけましといった状況。第一ベンチの水場を過ぎ、第二ベンチへ。
坦々と歩を進めるが蒸し暑さには閉口する。大汗を掻きながら富士見ベンチ。喘ぎながら合戦小屋。
そこにご褒美が待っていた。600円也のスイカ。水分とカリウム補給が出来、その旨かったこと!
大休止して味わう。ベンチ横のナナカマドが水玉の露でお出迎えしてくれ癒しになった。
 更に登りは続き、11:40燕山荘のラピュタ様の姿が現れた。やれやれ、あと一息だ。
12:20燕山荘到着。
山荘前のベンチで展望を楽しみながらの昼食。流石に表銀座の入り口、沢山の人が行き交う。
受付を済ませ、部屋に荷物を置き一休み。14時頃から燕岳に向かう。
槍穂を眺めつつ山頂へ。山頂も人が多い。
以前来たときは小屋も狭く汚かったし、燕岳山頂はもっと近かったように思った。
記念撮影してパノラマを楽しむ。
北アルプス北部の山々が雲の切れ間に見える。
小屋に戻り外のベンチでサービスのコーヒーとともに景色を楽しむ。
先ずはビールで乾杯し、1日目の登頂を祝う。夕食はハンバーグ、結構旨かった。
何だかホテルに来たようで落ち着かない。
 8月27日(水) 今日は大天荘まで。5:30出発。
急ぐことはないが、山は早朝立ちが原則。Bさんは日の出を気にしていたが、とても無理。殆んど霧の中を坦々と歩く。だらだらと軽いアップダウンを繰り返しながら黙々と歩く。
蛙岩を過ぎ、大下りノ頭からコルへ下り休憩。天候を心配しながら為右衛門吊岩を登り再び尾根歩き。
槍穂は思い出したように雲間に見え隠れ。「雨が降らないでよかった。」と慰めつつ切通岩。
時々いくつかの高山植物の群落が癒しとなるが山はもう秋の気配だ。
ゆっくり歩いた積りなのに喜作レリーフを見落とす。いよいよ最後のガレたトラバース。
約一時間やっと大天荘に着く。まだ11時前、小屋横のベンチでのんびり休憩。
 昼食後、受付を済ませて大天井岳山頂へ向かう。ゴロゴロの岩の道を僅か10分程であっ気なく着く。
登ってみて他のルートがないことが分かった。西側も南側もすぱっと切れ落ちてとても登れそうにない。
雲行きも怪しく、明日もう一度登ることにしてそそくさと小屋に戻る。
ここで高校生の一団と再会、合戦尾根で会ったとき山岳部とはちょっとした違いを感じていた。聞けば?高校のワンゲル部だそうな。燕山荘のテント場からピストンとの事。
しばらく雑談、40人ほどの大所帯だそうな、部運営や教師の責任問題の愚痴を聞いた。
改めて中学・高校のクラブ運営の大変さを感じた。
 15時頃から雨と風が強くなり大荒れ。稜線では大変だろうと同情。先を欲張っていたら大下りの辺りで捕まっていたに違いない。
老齢軍団である我々の判断は正しかった。ラッキー!
夕食迄ウダウダ。夕食のとんかつはうまかった。夜中トイレに起きた時、見た空は満天の星。明日は晴天間違いなし、期待しつつ寝た。
 8月28日(木) 今日も昨日と似た感じの行程。常念小屋まで行き、昼食。しばらく休憩の後、常念山頂のピストン。
 
5時前には起きて雨具上下とも着用しフードを被る。気温も低く、風が強い。
カメラ片手に日の出を待つ。茜色の雲が夜明けを告げる。
槍穂はシルエット状態ながらも威風堂々。北には剱・立山と後立山の山々も見られる。 何たる絶景!このルートの人気の程が分かった。
 
出発6時、槍穂を見ながらの尾根歩き。こんな素晴らしい景色のルートはそう無かった気がする。
「何でもっと早く来なかったか?」の思いが。
しかし、振り返ると冬の山への思いが強かったのでつい後回しになってしまったのだ。
槍穂にしたって反対側の新穂高温泉から中崎尾根の眺めと比べると感激の度合いが違う。
山は様々な条件が反映するのだから自分の年齢も条件の一つかもしれない?
強風もいつしか和らぎ、東天井岳、横通岳は素通りしゆっくりのんびり歩を進める。
常念小屋への下りにかかり、常念岳の登りに圧倒される。「この登りはざっとはいかんぞ!」と気を引き締めるがまだ10時過ぎ、小屋の受付と昼食で休んでから行けばいいかと思いつつ下る。
常念小屋到着、まだ10:20。昼食はアルファ米と小屋のそば。さすが信州はそば処、けっこう旨い。
11:30、気を引き締めて常念の登り。ガレたジグザグ道を一歩いっぽ慎重に登る。
老齢のせいで踏み出した足の乗り込みでバランスを崩し易い。
「眼も悪くなっているしなぁ。」と情けなくなる気持ちを抑え込み登る。
途中若者に抜かれながら13:30、常念岳山頂。
天気も景色も最高、槍穂の堂々たる姿、梓川の流れまでくっきり見える。しばしの撮影タイム。名残惜しさひとしおだが山頂に別れを告げ下山にかかる。杖に頼らず自分のバランスで歩くとやっと安定感を取り戻せた。
 小屋に戻り、Bさんの復帰を祝して、ビールで乾杯。蝶ヶ岳までの日程を切り詰めたのんびり山行ながら三山が登れて満足。後は一ノ沢の下りを残すのみ。
 8月29日(金)、道路陥没で工事中の箇所があり、一ノ沢登山口から下のタクシー乗り場まで40分ほどの歩きが必要。100円也を支払いタクシーを予約。6:30出発。
空模様は曇りがちながら雨の心配はなさそう。すぐさま急な道をジグザグに下る。
谷筋とあって沢水が豊富な道のようだ。暫く行くと水場。胸突八丁を過ぎ、笠原沢出合、更に進むと烏帽子沢出合。
Ⅴ字谷で左右からの流れが集中して落石の危険もありそう。昨今は異常気象が普通になりつつあり局地的豪雨も多い様で所々の沢は崩壊の跡。
ほぼ一ノ沢の流れを忠実に下る。小川には丸木橋も数か所。よく整備されている。王滝ベンチの標識には”大”滝の文字。下るにつれて気温も上昇。汗だくになる。
樹林帯で日陰が多いのがありがたい。前常念岳もこの沢から見るとなかなか威容。
前常念岳から三股への下りは常念小屋には危険の看板があった。坦々と下り一ノ沢登山口に着いた、9:40。しばらく休憩。タクシーの予約時間は11時。余りゆっくりもしていられない。アスファルトの林道をテクテク。
しばらく行くと野生猿軍団のお出迎え。かれこれ20頭余り。さして恐れる気配もない。鳥獣保護員の私としては一連のクマ騒動もこんな具合なのかもと複雑な気分。
杖を両手に持ち替え万一に備えるもどこ吹く風。更に下り崩壊箇所は臨時側道。
僅か15mでも運航は不能。そこから10分でタクシー乗り場到着、10:40。
ふと見ると熊出没の看板。ここもかよ、ウーム!
15分ほどでタクシーが来て4日間にわたる山行は終了した。
全体として、良い山行であった。雨風に遭わずトラブルなく歩けたことが収穫であった。
山行を提案してくれたBさんに感謝しつつ列車乗り継ぎの帰途に就いた。
コロナ禍以来、山行形態は大きく変わった。バスの減便・廃止。タクシー運転手の廃業での便数減少。
小屋運営の変革と価格の高騰など。それに加えて気候変動も侮れぬ要素。この変化にいかに対応するか、工夫の必要を感じた。
格差社会、資本至上主義の席巻が山に及ぶのも必然の流れか?何だか悲しいがこの現実にこの爺の頭の改革が必要だ。
今回のコース上を行き交う登山者を観察すると新しい発見があった。若者グループが良かったこと。
しかもテント泊で山行を生き生きと楽しんでいるようだ。
今後は彼らが山の社会を形成していくのだろう。
彼らはこの流れを当然として順応しているのだ。世の中、捨てたものじゃないのかも知れない?

コースタイム:
8/26 中房温泉登山口6:30→第二ベンチ7:50→合戦小屋10:20→12:20燕山荘14:00→燕岳14:30→燕山荘15:10
8/27 燕山荘5:30→蛙岩6:30→大下りノ頭7:40→切通岩9:50→10:30大天荘13:40→大天井岳14:00→大天荘14:20
8/28 大天荘6:00→東大天井岳分岐7:30→横通岳分岐9:00→10:20常念小屋11:30→常念岳13:10→常念小屋14:10
8/29 常念小屋6:30→胸突八丁7:00→烏帽子沢出合7:40→王滝ベンチ8:30→待機場所10:40