個人山行 北ア 薬師岳~雲ノ平~水晶岳

伊達

 薬師岳の姿は北アルプス各方面から眺め、一度は登りたいと念願していた。
B先生(以下Bさん)と「黒部川下の廊下」を下ったとき「今、一番登りたい山は?」問われ「薬師岳」と返答していた。今年6月Bさんから「薬師岳に登りましょう。」との誘いを受け快諾!
 早速、計画書を作成した。薬師岳を登り薬師沢に下り、北アルプス深部の雲ノ平を経て鷲羽岳を往復し、水晶岳に登り野口五郎岳を通り、烏帽子小屋から高瀬ダムに下る長大ルートだ。
開業医のBさんの休みが確保できるかが課題だったが7月になって8月の盆の時期なら可能との返答があり実現した。
8月10日(金) 診療後のBさんと新鳥栖で合流し博多駅へ、博多から新幹線で新大阪へ、サンダーバードで金沢へ、最終のつるぎ号で富山に着いたのは深夜0時。翌日の朝食を手配し富山のホテル泊。
8月11日(土)小雨の中、6:10発の折立行バスに乗る。車中は満員。
折立の駐車場も車、車。雨具に身を固め出発。急登を喘ぎつつ大汗をかいて登る。
暑さに耐えながら登ること2時間やっと斜面はなだらかになった。雨は上がり雨具を脱いで暑さから解放された。
五光岩ベンチ付近からは展望も得られるようになった。路傍で昼食。更にダラダラと登り13:00頃太郎平小屋到着。天気も急速に回復して、ここで大休止して展望と写真撮影を楽しむ。
小屋は大勢の登山者でテーブルやベンチは多くの人でいっぱい。トイレ横の水場の水は垂れ流し状態。ここで水を汲まなかったことで後々痛い目にあうことになった。
 愈々薬師岳に向かう。薬師峠はテントの花盛り、岩場を喘ぎながら登ると薬師平。大きなケルンとベンチのお出迎え。
チングルマはほとんど綿毛と化している。春からの猛暑で雪解けが早かったと見える。ニッコウキスゲには一輪出会えた。
陽も差してきて気合を入れ直して渇ききった尾根を登る。薬師山頂は見えないが愛知大の遭難碑が見えた。ハイマツ帯を抜けると突然小屋に出くわし今日の行程終了15:40着。
小屋はほぼ満員。食事も3交代。このところの日照りで小屋は水不足200mlの天水が200円とは何とも驚きではある。水の補給に400円とは痛い。
600円也の貴重なビールは旨かった。後は奮発して持参のウイスキー“越百”を舐める、矢張りうまい!いい気分で外の雲海の景色を満喫。
8月12日(日) 5:30起床。外は霧。
朝食をゆっくり済ませ6:15出発し山頂へ。遭難碑を拝み13人の冥福を祈る。
岩場を越えると憧れの山頂2926m。展望はきかず標識と祠にお互いの姿を記念撮影。
「憧れの薬師岳やっと登ったぞ!」と感慨一入。また一つ百名山を登った。
 小屋に戻りパッキングし直して出発。今日は薬師沢小屋までなのでゆったり行程。のんびりと写真を撮りつつ下る。
霧が晴れ天気は上々、しかし山肌や谷筋の崩壊を見ても地球の温暖化は深刻。雪渓はほとんど見えず、雪解けが早いせいか8月なのに高山植物は早や秋の風情。
太郎平まで戻り薬師沢に向かって下る。木道を過ぎ薬師沢出会いで休憩。更に木道を下る。
遥か遠くに水晶岳も見えてきたところで昼食。今回は軽量化のため昼食はアルファー米だけ。
年寄りの昼食には量がやや多い。最近は味もまずまず。これに汁物が加われば申し分なかったが軽量化のため水とガスと火口も持参しなかったがこれは失敗だった。
小屋で水やお湯は貰えると思ったのも誤算だった。飯だけでは矢張り味気ない。
 木道歩きが続くが静かで快適な下りではある。のんびりと歩き13:40薬師沢小屋に到着。
黒部川に張り出したテラスに座りビールで乾杯。河原に降り水辺で汗ばんだ体を拭きサッパリ。
Bさんは読書、私は河原で下手な写真撮影を楽しむ。
ここは“黒部川の上の廊下”の終点であり、薬師沢との合流点。更に“奥の廊下”が鷲羽岳祖父岳の間、岩苔乗越に延びているのだ。
 テラスで涼んでいるとBさんの沢登りの師匠、写真家でガイドのSさんが客を連れて上がってきた。
「水量が少なく楽勝だった」そうな。なかなかの好男子だった。
彼はNHK BS TV“幻の滝”出演者でもあった。もう少し話したかったが客を連れ早々に個室(彼専用の部屋がある。さすがこの辺の主だ)に引っ込んだ。
ここの小屋も満員で狭い寝床で寝る。
8月13日(月)朝から雨模様。昨夜暫くは満天の星が輝いていたのに。ここまで来れば計画通り進むしかない。
6:15下着の上に雨具をつけて雲ノ平に向かって出発。いきなりの小雨の急登を一歩ずつゆっくり登る。
数組の登山者とすれ違う。雨の中は蒸し暑くピッチが上がらない。
9:00やっとアラスカ庭園に差し掛かる。雨の高原はなかなか趣がある(とは負け惜しみ)。
なだらかな木道をのんびり進むと雲ノ平。小屋は風情があり大休止。
食堂で早めの昼食を摂り、コーヒーを飲みつつジャズを聴く。手作りのスピーカーの音色が素晴らしい。
そうこうするうちに雨も小止みになり祖父岳に向かう。
ケルン群の山頂は霧で真っ白。小屋でのんびりし過ぎたので鷲羽岳は涙を呑んでパス。
降ったりやんだりの中、水晶小屋着15:30
小屋の中は超満員。乾燥室は濡れた雨具がぎっしり。とても乾く状態ではない。
狭い土間のストーブで着乾しする。ビールで乾杯後ウイスキーをチビチビやっていたら乾いてしまった。
一難去ってまた一難、食事はなんと4交代、やれやれ。
寝床は布団1枚に2人。長い夜のスペース争奪戦が延々と続いた。寝たのやら寝られなかったのやら。
8月14日(火) 昨夜寝られぬまま明朝は起き抜けに水晶岳に向かって出発しようと考えた。朝の澄んだ空気の中で写真を撮りたかったのだ。
4:30過ぎに起きたとき外は雲海であった。5:00出発。
次第に空が晴れ絶好の撮影チャンスとなった。後方には槍穂の稜線、西には笠ケ岳の優美な姿。
立山も薬師岳も美しいカールを見せている。やっと念願がかなった。
腕はさておき朝の風景を撮りまくる。
6:00少し前水晶岳山頂到着。360度素晴らしい景色だ。記念撮影後にはブロッケンのオマケまでついた。
小屋に戻り野口五郎岳に向かう。東沢乗越付近では鷲羽岳がどっしりと見える。
登れず少し恨めしいが好天に免じて見送り先を急ぐ。
7月の好天続きで五郎池は完全に干上がっている。真砂岳を右にやり過ごし野口五郎岳の登り。
11:40山頂到達。野口五郎小屋で小休止。特製のアイスクリームが旨かった。
快適な裏銀座コースを坦々と歩く。眼下には高瀬ダム湖が見えてきた。
三ツ岳を越えると雲が湧き今度は虹の歓迎。浮かんでは消えて目を和ませてくれた。
途中北鎌尾根も垣間見えて懐かしかった。
ヒョウタン池を見てからが長かったが烏帽子小屋到着15:40
早速ビールで乾杯。気分は最高ビールを更に奮発。
小屋は空いていて個室状態で今夜はゆっくり寝られそうだ。
夕食時サプライズが待っていた。隣り合わせたのは何と元会社の現役社員。思えば社内研修で一緒だったM君だ。一気に盛り上がり彼の酒と私のウイスキーで身の上話に花が咲く。
それでも明日が早いので自重し、7:40就寝。
8月15日(水) 長かった縦走も最終日。
4:30起床、5:00出発。M君と3人で記念撮影後、見送ってくれた。今日も好天で朝焼けが美しい。
愈々ブナ立尾根の急坂を下る。5月から使い始めたストックが役に立った。
ストックは最初は慣れず、特にダブルストックはストックばかりに頼りバランスが安定しなかったが、シングルにしてピッケル感覚で使ってやっと使い勝手が良くなった。
三角点で休憩、朝食の味噌の握り飯が旨かった。
下りながら南沢岳、不動岳の山肌の崩壊が本当に痛々しい。雪崩と豪雨のダブルパンチかなぁ?
“ごんた落とし”通過7:40。ドンドン下り8:20登山口に着いた。
高瀬ダムではタクシーが待っていてそのまま信濃大町駅へ。七倉荘の風呂に入って汗を流し、さっぱり。
生ビールで乾杯。松本空港で食べたそばも旨かった。
14:30発の福岡空港行きに乗り16: 20福岡着。長い縦走は終わった。
久しぶりの夏の山小屋山行で反省点も多かった。
文中にも書いたが、何と言っても小屋の水不足は深刻で天水を消毒しての使用だが全く足りて無かった。
500ml 500円也のミネラルウォーターには目を見張った。天水でも500ml200円。それも一人一つ迄。
重くても水場から担いでいく必要があった。
お湯も小屋で貰えると思ったのは全くの思い違いであった。ガスと火口も必携であった。
昼食はアルファー米にしたが、一人一袋は老体には少し多かった。
Bさんとの北アルプス最深部の縦走、3日目の雨も風情があったし好天の後半は写真撮影で楽しかった。
ガイドで写真家のSさんと会えたこと、M君との遭遇のサプライズも忘れられない。岡山のM君とは「九州の山に一緒に登ろう!」と約束した。
今回の山旅で百名山をまた2つクリアできた。