個人山行 奥穂高山行

平田 T

山岳会の人達からよく耳にするツリオネ、ジャンダルム、キレット・・・等々の地名?、上高地さえ行ったことのない自身には何のことかわからずうらやましく聞くしかなかったが、今回やっと念願の穂高連峰山行に同行させてもらうことになった。
 9月3日(土)、松本で田尻S、H夫妻と合流し前泊。
登山計画では岳沢から入山し前穂高・奥穂高・北穂高と回り涸沢に下る予定であったが、折しも発生した台風12号が近づいてきており上高地方面は全日程雨の予報であったため計画変更。
岳沢小屋に入ってしまって風雨が強くなると身動きができなくなるため、涸沢経由でひとまず穂高岳山荘まで上がり、以後は天候の合間を縫って行動することにした。
全行程雨とガスの中の行動を覚悟したが、4日(日)、上高地に入ってみると、透き通った青空が全天に広がっており予報とは大違い。さっそく奥穂、吊り尾根を背景に記念撮影し、初秋の心地よい風の中を横尾まで華やいだ気分で遊歩道を歩く。
横尾からは長い登り道となりやっとすり鉢状の涸沢カールに着いたが、天候は大きく崩れることもなく曇天ではあったが穂高の稜線も拝むことができ、その日はあこがれの涸沢ヒュッテ泊となった。
 5日(月)の予報も曇りか雨であったが、早朝、小屋を出て初めのうちこそ稜線はガスで隠れていたものの、歩いているうちにやがてガスも消え紺碧の空が一面に広がり朝日に照らし出された穂高の峰々がくっきりと現れてきた。
これぞ北アルプス、深い碧色の空に映えた岩稜が美しい!間近に広がった思わぬ光景に感嘆し、しばし足を止める。
ザイテングラートの岩場を三点支持で登り最後に大きな岩を回り込むと右手に穂高岳山荘が見えて来た。
山荘のテラスで休憩後、急峻な岩場をハシゴ、鎖場を経て奥穂高岳頂上に到達する。
頂上より北穂、前穂、吊り尾根、ジャンダルム等を見渡し、位置、地形をこれからの山行のためにしっかりと脳裏に刻み込む。
宿となる穂高岳山荘の造りはしっかりしており図書室もあり設備も食事も充実しているのに驚く。
これまで保っていた天候もさすがに夕方からは崩れ風雨となり、翌朝6日(火)も雨は続いた。
 予報では翌日7日(水)も前線の影響で雨が続く模様で天候の回復は当分見込めないため、仕方なく予備日を使うことなく下山することにした。
下山開始して5分も経たない頃、整備された山道上で、たった先程滑落事故があったと仲間の二人が座り込んでいる場面に遭遇する。
仲間の一人は小屋に救援を求めに行った模様。ガスで下は全く見えず名前を呼びながら山道を下るも返答はない。
数分程下ったところで人が倒れているとの声が聞こえてきた。ガスを通してよく見ると急なガレ場を挟んだ先の畝状の緑地に青色の着衣がかすかに見えるが動く気配は全くない。
100m以上は滑落してきたものと思われた。すぐに下ってきたレスキュー隊5〜6人がガレ場を横断し駆け寄って行ったが間もなく「既に死亡」との無線連絡がむなしく響いてきた。
そっと手を合わせて現場を離れるしかなかったが、家族や仲間の心痛を思うと遣り切れない思いが残った。
 この出来事を前にしていかに事故を防ぐべきかと嫌でも考えさせられた。
これまで、岩場等の高所を怖がることは初心者のようで恥ずかしいという思いが少なからず自分の中にはあった。
しかし、山登りはあくまで趣味である。あまり怖がりすぎても山歩きはできなくなるが、これを機に恐がることを恥とせず、むしろ恐怖心を失わず慎重に行動する方をより大事にしようと思った次第である。
参加者
田尻S、田尻H、平田T