個人山行 三人娘(旧)の大爆歩

七倉からランプの船窪小屋を訪ねて?そして新穂高まで

福田 理香


烏帽子岳と立山連峰
 2年前のあるツアー会社の山行で、「船窪小屋は絶対に行くべき山小屋だ!ランプの風情のある小屋で、山菜の天ぷらが絶品、そして何と言っても山小屋を経営しているお母さんがとってもすてきな方だ!」との声。
どこにあるのか、その小屋に泊まるってことはどこの山に登るってことなのか、全くわからなかったが、「行く!」と心に決めていた。
昨年の山小屋整備の折りにつぶやいた「船窪小屋に行ってみたいんですが?」の独り言を石川さんは逃さず聞いてくれていたようで、5月GWの例会で、突然「船窪小屋に行こうか!?」と。即座に「行きます!」と反応して、この山行が決定した。
その後、「倉嶋さんだったらきっと乗ってくるよ!」ということでお誘いしたら、一発回答!「行きます!」。石川、倉嶋、福田のメンバー結成。
今回のコースは七倉からランプの船窪小屋を訪ね、それから新穂高までの変則裏銀座。先輩お二人は、船窪小屋?烏帽子小屋以外は何度か歩かれておられるのに対して、私は、最後のワサビ平?新穂高の4km足らずの林道しか歩いたことがない。
全くの未知の世界。どう見ても分が悪い。ワクワク半分、不安半分。
8月31日(日)
 JR組の石川さん、倉嶋さんと、名古屋駅で落ち合う。まずは、荷物の大きさのチェック、想像していた通り、私が一番大きい。
大分コンパクトにまとめたつもりであったが、やはりこの時点で、経験の差が歴然。 JRとタクシーを乗り継ぎ、この日の宿七倉山荘まで向かう。夕食では明日からの山行の無事を祈願し、乾杯!(これが始まりだった・・)
9月1日(月)
 天気予報では今日一日曇り時々雨のぐずついた空模様になりそう。
 6時40分出発。七倉尾根に取り付く。ガイドブックのとおり、取り付きからいきなり急登である。深い針葉樹林帯を石川隊長の絶妙なペースでゆっくりゆっくり歩を進める。
 八合目の鼻付き八丁、ハシゴの連続。とにかく黙々と登る。
傾斜が緩くなり、丈の低いハイマツ帯に出たところで、「天狗の庭」の標識。
本来であれば、高瀬湖と槍ヶ岳、穂高連峰などの絶景が目に飛び込んでくるはずであるが、今日は全く・・・心眼でもみることができなかった。
 ここからは、ほとんどアップダウンのないコースを、小1時間ほどで船窪小屋につくはずである。野生のブルーベリーや黒豆?を食べつつ、歩を進めていくと、お花畑が広がり、私たちの心を和ませてくれる。
石川さんと倉嶋さんお二人で、あ、○○の花だ!これって、△△の花ですよね!と会話が弾んでいる。私には○○も△△も全くわからない。そうこうするうちに、ひょこっと山小屋の屋根が・・・。え、もう着いたの!?
山小屋のお姉さんが、到着の鐘を鳴らして出迎えてくれ、暖かいお茶を振る舞ってくれた。とってもとっても美味しいお茶でした。ありがとうございました。
 標準タイム(6時間)+わずか30分ほどで到着(13:15)。景色は全く望めなかったが、意外にあっさり登ってきたという感じで、明日以降のために体力を温存することができ、まずまずの滑り出し。
 夕食までの時間、ビールで乾杯し一息。(昨日もビールを飲んだ、今日も当然のごとく飲んだ。今回の山行は連チャンの予感)お楽しみの夕食の時間。
風情のあるランプの灯りの下で、名物の山菜の天ぷら等、お母さんたちの真心のこもった美味しい食事をいただく。
夕食後しばらくして、小屋恒例(らしい)のお茶会が始まる。昨年喜寿の一大イベントとしてお母さんが太郎平まで縦走された時の映像(これをみて、石川さんは新たな闘志を心に刻み込まれたとか・・・)等が収録されたDVDを鑑賞した。
その後、山小屋の支援者の一人である怪しいおじさんのアコーディオンライブが開催される。短パンに半袖Tシャツ、ランプのともる薄暗い部屋にも関わらずサングラスにねじり鉢巻、クーラーボックスに座り、アコーディオンを抱えている。
誰がどう見てもアコーディオン奏者には見えない。ボソボソっとしたトークの後、奏でられるアコーディオンの音色は、風貌とのギャップが大きいためからか、薄暗い雰囲気のためか、何とも心にしみる音であった。
「ハウルの城」のテーマ曲ほか6曲ほど弾いてくださいました。なんだか、得した気分!
9月2日(火)
 今回の最大の目的の船窪小屋訪問は、あっさり達成されたのであるが、“歩き”の部分はこれからが本番、今日はまさに核心部。お天気は“晴れ!”。
朝食後、支度をして小屋の外に出ると、昨日全く見えなかった景色が一望。正面に今日の通過点である不動岳、そして遠くに富士山、八ヶ岳もはっきりと見ることができた。最高の山行日和。やっほ?!
 お母さんと写真に納まり、別れの鐘を鳴らしてもらい出発(5:45)。私たちの姿が見えなくなるまで、2度3度と鐘を鳴らし続けてくれた。ありがと?、また来ますね?!
 七倉岳分岐を通り過ぎ、足場の悪い崖を慎重に船窪乗越まで下る。この地点が、針木古道への分岐である(山上さん、針ノ木古道を下りましょうね!先導をよろしくお願いします!)。
針ノ木小屋、蓮華岳のデンとした姿が望める。さらに、ハシゴやロープがかかったヤセ尾根を何度か上り下りを繰り返し、船窪岳第2ピークにたどり着く(8:45)。
ここから険しい下り。途中、倉嶋さんにとって、本日の最大の難所?不動沢側、南沢側両方に大きく崩落した鞍部を石川隊長の「大丈夫、大丈夫!あなたならできる!You can do it!(と、言ったかどうかはわかりませんが・・・)」の呪文のような声に励まされ、ゆっくりゆっくりすり足で無事に通過。
その後も足場の悪い下りが続く。視界が開けたところからは、右手には薬師岳、左手には4年前に歩いた槍ヶ岳?燕岳がクッキリ。最高?!とご機嫌で下りきったら、今度は標高差300mほどの上り、げ?。
12時05分不動岳山頂(2,595m)にたどり着いたとほっとした瞬間、遠くに四つ脚の黒い生き物が・・・。熊か???3人の間に緊張が走る。
石川さんが笛を吹き、双眼鏡を取り出す。倉嶋さんも熊鈴をならす。(ちなみに、私のザックからは黄色の硬式用テニスボール。何の役にも立たない。
ここでも先輩との差が・・・トホホ。)すると、数匹の小さい影が、手前の岩にも・・・な?んだ猿のファミリーだった。
ここまで、小屋を出発して既に6時間超。予想以上に時間がかかっている。先を急ぐ。次に目指すのは南沢岳。
不動岳とほぼ同じ標高であるが、200mほど下って、また登り返す。この間2時間。なかなか距離を稼がせてくれない。
ようやく南沢岳に到着する(14:10)と、山頂には一面のコマクサが・・・サプライズの出迎えに3人の顔もほころぶ。
しかし、まだまだ私たちの前には道が続く。本日の最終目的地烏帽子小屋まではまだまだ遠い。
少しずつ雲が出始め、四十八池にさしかかる頃には、ガスってしまい、ほとんど景色が見えない。池をすぎると確か、ほぼ平坦な道を行くと烏帽子小屋に着くはず。
しかし、それらしき気配は全くなく、道は若干登りに・・・そんな馬鹿なぁ?烏帽子岳の分岐にさしかかるが誰一人、行ってこよう!というものはなく、ただひたすら小屋を目指す。
15時55分、ようやく烏帽子小屋に到着。船窪小屋を出てから、約10時間。おづかれざまでしだ?(私は、心なしか頭が痛く、もうヘロヘロでした。しかし、今日もビールで乾杯!)。
9月3日(水)
 6時10分烏帽子小屋出発。今日も朝からいい天気!
本日は、三ツ岳?野口五郎岳?(真砂岳)?竹村新道分岐?水晶小屋まで、6時間半の行程を予定。
竹村新道までは、若干のアップダウンはあるものの、広い稜線歩き。後ろを振り返ると、昨日全くみえなかった烏帽子岳、剣・立山連峰、薬師岳の眺めがすばらしい。
前に向き直ると、右手に赤牛岳、左手に槍ヶ岳。雄大な景色が広がる。
竹村新道分岐から痩せた尾根になり、大きな岩のゴロゴロ地帯を慎重に進む。【“ゴロゴロ”といえば、全く触れずに通過した「野口五郎岳」の名の由来は、北東に位置する野口集落(現・大町市野口)から見えるゴーロ・ゴーロした大きな石の山からきているといわれているようです。(出典:ヤマケイ アルペンガイド7 槍・穂高連峰 山と渓谷社)】
東沢乗越まで砂礫の斜面を下る(12:15)。ここから水晶小屋までは1時間ぐらいだったと思う。しかし、昨日のロングコースの疲れからか、やたらと小屋が待ち遠しい。
小さなアップダウンの繰り返し。まだ?まだ?と思いながら歩く道のりはつらい。辺り一面ガスに包まれ、霧雨の中・・・小屋はまだか?風も強くなり、か弱い3人娘は飛ばされそうになりながら、黙々と登る。
13時20分水晶小屋に到着。天候が悪化してきたので、飛び込みの登山者で受付は込み合っている。
今晩は、1枚の布団に2?3人は覚悟しなければ・・・(結局私たちはラッキーなことに1人1枚でした)。
天気がよければ、水晶岳まで足を伸ばそうと思っていたが、悪天候のためあっさり断念。お決まりのビールでお疲れさ?ん!狭い小屋ならでは、席を譲り合ううちに、テーブルを囲んだ皆さんと仲良くなる。夕食までの約4時間、しゃべって、飲んであっという間だった。
9月4日(木)
 6時15分水晶小屋出発。朝から霧雨。天気は下り坂(> <)。砂礫の斜面を下っていく。
ワリモ北分岐から三俣山荘まで沢沿いコースもあるが、鷲羽山に登りたかったので、何も見えないことは承知で、ワリモ?鷲羽コースをリクエスト。
ワリモ岳( 7:05)そして鷲羽山(7:45)。お天気がよければ、北アルプス全体を一望できるはずであるが、全く。心眼で景色を堪能?し、先を急ぐ。
鷲羽からの下りは石屑の滑りやすい斜面、慎重に下っていく。1時間ほど下ると三俣山荘を眼下に発見。ちょっと立ち寄ってコーヒーを飲もう、と言っていたら、ひょこっと3羽のライチョウが姿を見せる。会えたのはうれしいが、彼らが出てくるということは、天気が悪くなる知らせ!?ちょっと複雑な気分。
山荘で30分ほどお茶タイム。今日は当初の予定では鏡平まで下りる予定であったが、天気も悪く、逆さ槍も望めないということで(本当の理由は、鏡平小屋名物のかき氷が食べられないのなら泊まってもしゃ?ない、ということでした)双六小屋に宿を変更することを決定。
雨脚が強くなる中、10時45分三俣蓮華岳到着。名前の通り、長野・岐阜・富山の三県境であることを標識で確認し、証拠写真を撮る。
本来であれば、360°大パノラマであるはずであるが、な?んにもみえない。双六岳をあきらめ、途中から中道を通り、先を急ぐ。
途中、足下は地下足袋、背には大きなザックのお姉さんがサッソウと私たちを抜き去ったと思ったら、お姉さんの前を丸々太ったライチョウが4羽。今日は7羽みました。天気が悪くなるのも仕方のないことである。
12時45分に早々と双六小屋到着。濡れたものを乾燥室に干し、お決まりのごとくビール(私は氷結グレープ味)でかんぱ?い!その後、夕食までの長?い時間、三人で他愛のない話を・・・これもまた楽しかったです!
9月5日(金)
 山行最終日、新穂高までの行程。昨晩は、大荒れの天気。今朝もそのまま悪天候。槍を目指す方たちは、山小屋で停滞するらしい。
7時出発。とにかく何も見えず、雨は強くなるばかりで、ひたすら下る。
2時間ほどで鏡平到着。30分ほど休憩を取り、またひたすら下る。途中、普段はチョロチョロと水が流れていると思われる沢でも、すごい勢いで水が流れていた。
小池新道入口から新穂高温泉まで約1時間、林道を歩き、今回の楽しかった山行も“終わり”を迎えた。
 何事も次につなげるためには、しっかり反省会をしなければいけないということで、この日は「平湯温泉山がの湯」に宿をとった。
5日ぶりに温泉につかり、その後この山行の〆としてビールで乾杯し、美味しいお料理に舌鼓をうちながら、5日間を振り返った。
 今回の山行は、私にとって最長のコースでした。無事に歩き通せたのも、先輩お二人のおかげです。ありがとうございました。
2・3日目はお天気がよく、景色を堪能できましたが、4・5日目は一転して悪天候となり、水晶岳?双六岳は宿題となりました。
また近いうちに歩きたいと思っていますので、私とつきあってもいいかな?と思われる、晴れ男、晴れ女の方、是非ご一緒ください!