個人山行 九重(大船山と法華院山荘)

松田 朋子

 晩秋の九重へ行って来た。大きな目的は、法華院山荘に泊まり、温泉に入ってゆっくりと過ごす事。九重の登ったことのないルートを歩くのも楽しみであった。すっかり秋も深まっているだろうなあと期待して当日を待った。
▼11月29日(金)早朝小雨が降っている。がっかりしながら、田尻さん宅へ向かう。7時頃長崎を出発。
博子さん曰く「この雨だったら、山は雪よね。」の言葉に、不安をつのらせながら石川さん宅へ。
まもなくして、高速へ乗ると、なんと諫早、大村あたりでその辺の山はすっかり雪をかぶっているではないか。長崎で、この時期にこんな雪景色の山を見るなんて!とみんなびっくり。
お天気の様子を見ながら、九重に近づいてきたらはっきりルートを決めようということで、車で走りながら様子を見る。大分自動車道に入るに従って、雨は止んできていた。
予定通り、今水の駐車場から大船山を越えて行く東尾根ルートをとる事に決まった。
 今水の駐車場に着いたのが11時近くで、早速登り始める。登山口からすぐに、やはり白く雪が積もっている。私は、雪山の経験がないので「うわぁー、もしかしてずっと雪の中を歩くの?」と珍しさ半分、不安半分、おそるおそる足を雪につっこんで歩く。
一応、軽アイゼンも用意していたのだが、サクサク、フワフワの雪でアイゼンは必要なさそうだ。
こんな雪の中を歩くのって、ロマンチック!とはしゃいで写真を撮っていると、会長さんが「まーだ、上はもっと雪が深くなってくるよ。こんなもんじゃない。」と言われる。「へえーーー」と、想像もつかずズンズンとくるぶし近くまで雪を踏みながら歩き進める。
 皆さんは、私に経験を積ませる為に先頭に立たせて下さる。私たちの前には誰も歩いた様子がない。
静かな、誰もまだ歩いている人のいないまっしろな雪は、深い落ち葉の上に積もっているものだから、時々思いもかけず「ズボッ」と足が埋まり驚かされる。雪が空から舞い始めてきた。風も吹いてきた。
 12時になったので、雪を避けて林の中で昼食タイム。温かいココアを入れて、お昼を食べて一息つく。
会長さんは、温かいにゅうめんを食べておられる。寒い中の湯気っていいなと思う。
お昼を食べたら、早々に出発だ。段々、急な登りになってくる。上に行くに従って、霧氷が現れた。立派な霧氷だった。辺り一面、霧氷の見本のような霧氷だった。
これは、昔読んだお伽話の「雪の女王」の世界だわと感激する。まるで、お話の中に飛び込んだみたい。今にも、雪の女王が現れそう。
しかし、急な登りを頑張りすぎて登っていると少しクラーッとしてきて、休憩を取ってもらう。石川さんや博子さんにあれやこれや、食べ物など補助してもらうと何とか正気が戻ってきた。
どんな時でも、甘いものを食べると元気が出るなんて、自分でもちょっと笑ってしまう。全然ロマンチックじゃない。
  やっと、大船山頂上に着いたのが15時であった。雪と風が強い中、記念撮影。大事な証拠写真。寒いので、早く降りることにする。
 段原に着いたのが、15時30分。ここで、今夜の宿の法華院山荘に「今、段原です。予定より少し遅いですがそちらに無事向かっています。」と電話を入れる。
雪の中、駆け下りるようにして下る。坊がつるに着いたのが、16時30分。そして、法華院山荘に到着したのが16時55分であった。暮れかかっていた。
 以前、坊がつるにキャンプした時に法華院山荘を見て、一度泊まってみたいなあと思っていた山小屋だったので、期待大であった。
法華院山荘の明かりを見た時は、ほっとした。かじかんだ指を、息で温めながら宿泊簿へ記入する。本日の泊り客は、私達4人ともう一組だけらしい。ゆっくりできそうである。食事も温泉も楽しみだ。
 部屋は、個室を用意して下さりストーブも入り、嬉しい。部屋の中から雪景色を見ながら、ストーブの前で濡れた手袋などを乾かす。
 そうこうしているうちに、18時。夕食の時間になった。食堂談話室で、もう一組(男女)のお客さんとも顔を合わせる。(後日気がついたのだが、この男性が今、NHKの趣味DO楽にちょうど出演しているシェルパ斉藤さんだった。きっとそうだと思う。一緒に写真に写ってもらえばよかったな…)
 夕食は、期待通りのご馳走で「とんかつ・温かいおそば・おでん・ゴマ豆腐・銀杏やきのこの炊き込みご飯」がお盆の中に所狭しと並んでいる。
CDラジカセから九重の歌がかかっている。ストーブの前でそれを聞きながら、美味しい夕食タイムであった。お腹がすいていたので、あっと言う間にたいらげて、ストーブにあたる。幸せ、幸せ。
 お部屋に戻って、ちゃんと朝から山田SAで買っておいた、デザートのアップルパイを皆で楽しむ。それから、またお楽しみの温泉に入りに行く。
温泉は、清潔感がありながらも薄暗い風情のあるお風呂だった。お湯の中に湯の花が散っているところが、また良い。私好みの熱いお湯も出ていて、日常の疲れが飛んでゆく。私は、ここを定宿にしたい。度々、訪れたいなぁと強く思った。
 体の芯から温まり、就寝となった。いい夢が見られそうである。
▼11月30日(土)6時起床。天気は、青空の晴れ!外は、朝焼けがきれいで周りの山々の美しいこと。これから始まる1日の事を思うと、ワクワクしてしまう。
朝食も楽しみ。7時に食堂に行くと、ストーブが赤々とついていて朝食の準備ができつつある。朝のメニューは、「おみそ汁・温泉卵・納豆・肉じゃが」と朝から豪華版。石川さんが、ご飯の量が多いからと、私のお茶碗に少しわけて下さる。朝から食が進む進む。私は、お弁当も作ってもらった。
 食後に、「お客さんも少ないし、寒い中わざわざ来てくれたから」と山小屋の人がコーヒーをサービスして下さった。ストーブの前で、コーヒーを飲みながら話が弾んでいると少しゆっくりし過ぎて、その日の出発は8時30分。
 法華院山荘を出発しても、360°周りの山を見渡すと、雪をかぶっていてそれが青空に映えて、それはそれは美しい。皆で写真を夢中で撮りながら歩くので、なかなか前へ進まない。
 その日は、黒岳経由で今水まで帰ることになっている。まずは、大戸越を目指す。
途中の山道が、早朝の誰もまだ歩いていないフンワリとした新雪で覆われている。一面まっしろな世界だ。深いところでは、ズボッとふくらはぎ程まで埋まる。
静寂に包まれた、清らかな朝のピンと張り詰めた空気。私達以外、だーれもいない、まっしろな世界。風さえも吹かない、青空が晴れ渡っている。ところどころに、野うさぎか森の動物の足跡が点々・・・と、ついていて可愛らしい。
本当に、静かな静かな時間がゆったりと流れている。皆、口々に「こんな、ゆっくりとした静かな山歩きができるなんて、幸せだなあー」と言っている。
 ねらっても、こんなシチュエーションの山には出会えないだろう。たまたま、運が良かったのだ。なんて、ラッキー!ビューティホー!ワンダホー!私はこの景色を、この時間を決して忘れないだろう。
家族はもちろん、お友達にも、職場の皆にも、私の関係する人達全員に、この光景を見せてあげたい、味わわせてあげたいと思った。
 大戸越についたのは、10時だった。大戸越からも、坊がつるなどが見渡せて眺望が良い。
大戸越を越えて、いよいよ黒岳方面奥ゼリへ向かう分岐点の標識をみつけながら下る…が、なかなかその標識が現れてこない。右手に現れるしっかりした標識なのに、見落とす筈はないと会長さんは言われ、博子さん、石川さんもおかしいねと言い合いながら引き返すことになった。
引き返すと見つかった。私が先頭で、左寄りにコースを取ったため、右手にあるその標識に行き当たらなかったのだ。ここで、40分ほど時間をロスしたため奥ゼリに着いたのがちょうど12時であった。
黒岳に登ると、その後の時間が足りなくなるという事で今回は黒岳には登らず、風穴を通りそのまま今水駐車場に降りることとなった。
 さて、話を元に戻すと12時に奥ゼリで昼食休憩を取る。ここでの、青空に雪景色の休憩タイムがまた格別によろしい。魂が浄化される。日頃のストレスがスーッと抜けていく。(日頃のストレスなんて、昨日からとっくに洗われていたのだが)。
法華院山荘のお弁当はご飯多めのボリュームたっぷりで、美味しかった。
 風穴に13時10分。今水の駐車場に下山したのが、14時35分であった。山を降りる時は、いつもちょっぴり寂しい。
 帰路につくのだが、途中での温泉と夕食も楽しみ。ガソリンが心配というので、一番近くのガソリンスタンドが長湯だったので、お風呂も長湯温泉に入ることになった。
私が以前から、とてもいいと人から聴いていた「翡翠の庄(かわせみのしょう)」という旅館のお風呂に入れることになった。少しぬるめなのだが、趣のあるお風呂で満足だった。旅館の雰囲気も素敵だ。
由布院ICから高速に乗ることにしたので、夕食は由布院駅の近くで「とり天定食」なるものを食べて、締めくくった。あー、こんな楽しいことばかりでバチがあたらないかと心配になるほどぜいたくな山旅であった。
 思いがけない雪とのんびりした静かな時間は、神様からの素敵なプレゼントだった。また、明日から頑張ろうという活力が湧いてきた。さあ、次の山行が楽しみだ。