個人山行 北アルプス(唐松・五竜)

窪田 紀幸

 久し振りに北アルプスの夏を満喫。やや短いコースですが、山にはあまり興味なさそうな嫁さんをうまく誘い出し8/11(日)〜13(火)2泊3日の山小屋泊、ちょっと贅沢な山行を堪能して来ました。
▼8/11(日) 前泊の松本市内の松本駅近くのホテルを5:20にチェックアウト。前日、日中はうだるような暑さだったが早朝はヒンヤリとして爽やか(駅の上の電光温度表示は23℃なり)。今日も快晴。
途中コンビニに寄って行動食を補充。6:00始発の信濃大町行き大糸線に乗車。少し登山客等で混雑するかと思っていたが予想外に少なくゆったりと先頭車両に乗り込む。
ここから鈍行に揺られてゆったり進む。松本を出ると山ヤの琴線をくすぐる“穂高”等々の駅を通過、進行左手に北ア南部の山々が見え隠れする。信濃大町で乗り換えることなく列車は白馬行きに変わる。
信濃大町を過ぎると北アの尾根が手前にせり出してきて、後立の山々が車窓から良く見え始める。
 8:00白馬到着。いつの間にか増殖した観光客・登山客が改札に向かう。駅正面にはドーンと八方尾根と3000mの山々が鎮座している。
駅前から猿倉行のバスに乗り込み5分程で白馬八方に到着。早朝のためか降りた登山客は数組。リフト乗り場を確かめ徒歩15分ほどで乗り場に到着。
車で乗り付けたすでに列をなしている観光客に混じりチケットを購入。登山者が希少で暇を持て余しているのか、話し好きな登山指導所に計画書を渡していざ出発。
 ゴンドラアダム・アルペンクワッド・グラートクワッドと横文字の名のついたロングスパンの3本のリフトを乗り継ぐ毎に高度を一気に稼ぐ。天気が良すぎるのか下界は少し霞んで見えるが上空は真っ青、夏本番。
 八方池山荘に9:30到着。身支度をして登山道の稜線に出ると正面に白馬槍が大きく見える。老若男女の観光客の人混みに混じって歩を進める。
 さすが八方尾根、ほとんど軽装の観光客ばかりで登山者っぽい格好の人が見えない。そうこうするうちに八方池到着。薄紫色のマツムシソウがあちこちに咲き乱れている。こんな大きな群落を観たのは初めて。八方池は表面にさざ波が立っていてお約束の逆さになったキレットは残念ながら見えない。
 八方池を離れると途端に静かになる。八方池が登山と観光の境目になっていることが良く判る。イヨイヨ登山かと嫁さんも心なしか緊張している様子。八方池のすぐ上からダケカンバ類の樹林が出てくる。ここの植生は他の場所と違うらしい。
 12:00扇雪渓着、上から吹き下ろしてくる風が爽やか。ここを少し登ると丸山ケルン(12:25)。眼前に不帰嶮・天狗ノ頭が迫り圧巻。16年前(97年4月)に登ったルートが思い返される。天狗ノ大下りはただきつかったが今となっては良き思い出に昇華している。
後ろを振り返れば五竜岳、その後方に鹿島槍ヶ岳がきれいに並んでいる。
 ゆっくりと高度を上げ、牛首が見える辺りから稜線の左を巻くと唐松岳頂上山荘に飛び出した。16年前の雪に埋もれた姿は記憶にない。赤いトタンの綺麗な小屋である。
先に宿泊手続きを済ましてから唐松山頂に行くことにする。500円追加して本館食堂2階の部屋もあると言われたが、ビールの方が良いので普通の別館9,000円(1泊2食)にする。
別棟の別館は歩いて徒歩100歩、雨の日ならば確かに本館が良いかもと思ったが、天気は快晴、何も気にすることはない。室内は改装されたばかりのようで内装は真新しく清潔である。
 水・行動食・カメラを持って唐松岳に向かう。砂礫地には嫁さんお気に入りのコマクサが可憐に咲いている。
 14:20唐松岳頂上到着。対面の立山・剣岳は午後からのガスに包まれているが、後立側はまだガスが上がりきっておらず良く見える。
 北からちらりと白馬、近くの不帰嶮をはさんで天狗ノ頭…、南に目を向けるとずっしりとした五竜岳、山に囲まれ至福の時を過ごす。キレットから登ってくる登山者はほとんどいない。
15分ほど山頂からの眺望を堪能して山荘に戻る。
 山の天気は変わりやすい。15:00山荘に戻って生ビールを注文する頃には辺りがすっかりガスに囲まれ風が吹き出す。既に涼しいというより寒い。
小屋前のベンチではフリース・ダウンジャケットを着込んで酒盛りしている御仁もいる。外で飲むと体が冷えるし、つまみがほしいのでビールを持って別館に入る。
玄関脇の階段に座ってつまみ片手にビールを飲む。夕食タイムは16:30から、1時間ほどあるので明日の行動予定等を確認しながらゆっくりする。部屋割は畳4畳(8人)程に4人でゆったり寛げる。
 夕食時間になり本館食堂に向かう。とても山小屋とは思えない洒落た食堂の作りになっている。
サバ照り焼きを始め9種類の料理を盛り付けたワンプレートでおいしい。数年前泊まった西穂高山荘の夕食は食嫁さんに不評だったが、今回は満足の模様。
 食事を済ませて玄関に出るとガスは晴れず気温は17℃に下がっている。ベンチで酒盛りの御仁はまだ宴会中。(かれこれ2時間半よくやる)我々は別館に戻って食後のコーヒーと赤ワインで締める。
そろそろ夕焼けが見える頃だがガスが晴れなかったのであきらめかけてボーっとしていると突然ガスが晴れ、皆バタバタ支度をして戸外に飛び出す。
剣岳上に三日月が綺麗に浮かんでいる。山小屋の明りだけが点った暗い上空を仰ぐと満点の星空、久し振りに天の川を観ることができた。21:00頃就寝。
▼8/12(月)4:00起床、小屋の寒暖計10℃、快晴。御来光を観るため早起きする。周りも既に起き出してゴソゴソやっている。
身支度を整え小屋裏の峰に上がる。薄明の中、ヘッドランプを付けた面々が連なっている。5:02雲海の中から太陽が登ってきてパワーをもらう。御来光はいつ見ても良い、元気が出る。
 今日は五竜岳まで約5時間の行程なので、朝食は6:30からゆっくり摂る。今朝は大きな塩鮭・卵焼き…、美味しくてつい朝から食べ過ぎる。7:10出発、すぐ牛首の岩場にかかる。
 足場と鎖がしっかりしているので心配することもなく岩場を通過。8:35大黒岳と白岳の中間地点の最低鞍部に到着、程良い岩場通過の緊張が解けてホッと一息つく。シオガマ・オダマキ・クロユリ・キヌガサソウ等、沢山の高山植物が道々咲き乱れ目を楽しませてくれ、さながら天上の楽園である。
 10:15五竜山荘着。遠見尾根から登って来たらしい大勢の登山者でにぎわっている。我々はデイパックに水・行動食・カメラを詰めて五竜岳に向かう。
 岩登り経験者であれば何てことはない岩場だが、嫁さんからは目を三角にして目くじらを立てられる。非難の視線は無視して急なザレた岩場を淡々と頂上に向かって登る。
左はスパッと切れた崖、右も傾斜のきついガレ場になっているので注意しながら登る。大岩を攀じ登ると頂上は間近になる。
 11:30五竜岳山頂に到着。ぐるり360度の景色が堪能できる。南には、昨年5月に登った鹿島槍ヶ岳と北峰から延びる八峰キレットの稜線がググッと迫ってきて琴線をくすぐる。
鹿島槍南峰の右手奥には遠く槍ヶ岳の鉾先が覗いている。素晴らしい眺望と、全山夏山真っ盛りである。
 30分ばかり山頂で至福の時を過ごしてから下山する。岩がゴロゴロしているので下りは登りより慎重になる。嫁さんをサポートしながら13:00無事五竜山荘に到着。
山荘にチェックインし、昼御飯をとっていなかったので山荘でビールとうどんで乾杯。夕食17:00まで間があるので本を読んだりしてボーッとして過ごす。今夜は8人スペースに6人でまたゆったり。
夕食はカレー、シンプルだがうまい。同室の川崎から来られた御夫婦は普段うまいものを食っていないかのごとく「おいしい」「おいしい」を連発してお代り3杯を平らげる。負けちゃおれんとお代りするが、すぐ腹一杯になって完敗。
 川崎夫婦から今宵は“ペルセウス流星群”の日と聞き、期待するが残念ながら夕方から出たガスが晴れない。下界では稲妻が光っており夕立らしい。今宵は白ワインを傾け、夜明けに期待し寝る。
▼8/13(火)3:00起床、期待通りの快晴。山荘前のベンチには予想外に人が群れて夜空を見上げている。昨夜同様、星が落ちてきそうな星空で、ヒューと音でもしそうな流星が時折流れる。
カメラの長時間露光を試すがなかなかうまく撮れない。それでもやっと1枚写真に収める。

明け方のオリオン座とペルセウス流星
徐々に薄明が訪れ昨日より2分ほど遅い5:04に御来光。気温は判らないが長時間外気に当たっているせいか昨日より少し寒く感じる。
 5:30にちょっと遅めの朝食。昨日と同じような塩鮭・卵焼き・漬物類。質素であるが山の上の朝食はうまい。御飯をお代りする。(おかげでちっとも痩せない)
 既に昨日五竜岳には登っているし、このまますることもないので6:15に出立する。
山荘裏の一登りで遠見尾根にかかる。名残を惜しみながら五竜岳を振り返り振り返り下る。足元ではピンクのミヤマアズマギク、ダイモンジソウ等可憐な花々が目を楽しませてくれる。
 8:20大遠見を過ぎる頃、ガスが上がってきて山頂付近は徐々に見えなくなり、黙々と降りるだけになる。小さなアップダウンを繰り返して高度を下げ9:28小遠見山に到着。鹿島槍は雲に隠れて見えない。
 ここからはトレッキングコースになっていてスニーカーのトレッカーが増え始め、下界が近くになったことを実感。10:40地蔵の頭を通過し、長い下りでやや疲れた足取りでテレキャビン乗り場に11:00に到着。
ホッとしたのと同時に、ついさっきまでの静かな山に戻りたいそんな心境になった。
▼一泊二日のコースを二泊三日で巡るゆったりした今回の夏山でした。
天気に恵まれ、色とりどりの高山植物に癒され、北アルプスらしい岩稜歩きもあり大満足。北アルプスを堪能したい!…そんな方おすすめのコースです。

コースタイム
8/11(日)8:00白馬駅〜8:30ゴンドラ乗り場〜9:30八方池山荘〜10:25第2ケルン〜12:00扇雪渓〜12:25丸山ケルン〜13:30唐松岳頂上山荘〜14:20唐松岳頂上14:35〜15:00山荘
8/12(月)7:10発〜8:25大黒岳〜8:35最低鞍部〜10:09遠見尾根分岐〜10:15五竜山荘〜11:30五竜岳山頂12:00〜13:00山荘
8/13(火)6:15発〜7:50西遠見山〜8:20大遠見山〜9:28小遠見山〜10:40地蔵の頭〜11:00アルプス平駅着

朝日新聞 2013年9月18日付 ひととき