個人山行箱根外輪山ハイキングと赤天狗尾根の試登

伊達 栄

 退職後の遠征山行第一弾はひょんなことから箱根行きが決まり、昔の仕事での知り合いに連絡したところ、八ヶ岳の赤岳天狗尾根の試登に誘われ行くことになった。
 格安航空券を探していたら東京⇔福岡往復2万円を発見。「こんなに安いなら一度行くか」となった。
箱根に良い宿があるとの妹の紹介で温泉泊も決まった。箱根だけではつまらないので、25年来年賀状を交わすだけだったT先生に連絡すると、しばらくして「赤岳天狗尾根に偵察行ってみたいので付き合え」との返事。
冬のバリエーションルートで大丈夫かなとは思ったが誘惑に乗ってしまった次第。

箱根外輪山北側ハイキング

 11月29日(木)箱根は東京から小田急線特急で1時間半。欲張って乙女峠から金時山、明神ケ岳・明星ケ岳越えて宮城野への外輪山北部縦走を計画した。
東京を7時頃発、10時から登りだしても飛ばせば何とか16時には降りれるのだ。
 平日とあってJRの快速、小田急特急とも混まず予定通り箱根湯本に9時に着いた。
そこから箱根登山バス御殿場線に乗り換え約1時間。10時少し前に乙女口の登山口に着いた。天気は上々、今年は紅葉も綺麗だ。
小涌谷温泉泊とあって暗くなる前につけば良いし、縦走中気が向けばどこででも下山できるのも気楽だ。そうはいっても計画通りに歩きたいと気合は入った。
 地蔵さんのある乙女口登山口から30分足らずで乙女峠。ここからの富士山の眺望は素晴しい!南には河口湖の一部が見えている。
写真もそこそこに金時山に向かう。さすがに都会が近いとあって平日というのに中高年や若者の登山者も多い。マナーは良くすぐ道を開けてくれる。
富士山を眺めながらの贅沢なコースだ。紅葉も少し遅いが今年は美しい!40分余りで金時山に着いた。
足柄山の金太郎の伝説の山。山頂は人で溢れている。なんと食堂まであるのだ。
昼食にはまだ早いので先を急ぎ矢倉峠に向かい、途中見晴らしの良い岩で湯煙を見ながらの昼食。ここでも仙石原からの登山者が大勢登ってくる。
 矢倉峠からは笹原を火打山に進む。気持ちの良いだらだら坂で、振り返ると金時山の後ろに富士山が聳え見とれる。火打山はこれが山頂かと思えるなだらかな鞍部。道端には桔梗や松虫草が咲いていて驚かされた。やはり今年の秋は暖かかったのだと思う。
 少し急勾配を登ること40分足らず明神ケ岳に着く。ここも箱根の山の人気スポットのようでたくさんの登山者。殆どの登山者がのんびり登っていて、縦走しているパーティは居なさそうだ。
まだ2時過ぎなので明星ケ岳まで足を延ばすことにする。ここから先は人も少なく静かななだらかな尾根歩き。標高もかなり下がり、紅葉も楽しめる。
明星ケ岳も山頂の立派な「御嶽大神」の石碑が無ければ通り過ぎそうななだらかな山頂だ。
15時を回ったので急いで下山開始。急な斜面だが道はしっかりしている。湯の町へ降りて行くなかなか風情がある。紅葉を愛でながら宮城野に降りついた。丁度15時45分だった。
 小涌谷の温泉は泉質は良かったが、カルキの臭いがしたのはいただけなかった。
 翌日はフリー切符を利しての観光ロープウエイや観光船に乗り元箱根に着いた。
杉並木、関所を見学し、帰りのバスは箱根駅伝の6区山下りのコース(バスは箱根湯元までだが)だ。バスの前に陣取り、選手になったつもりでコースをシュミレーション。「こりゃ駄目だ!」この下りでは2キロと保つまいと思った。

赤岳・天狗尾根の試登

 11月28日(水)夜、25年ぶりにT先生と再会。天狗尾根バリエーションルート偵察登攀打ち合わせをする。精悍な顔つきだった先生も25年の間にすっかり変わっていた。髪は白髪になり、顔も穏やかになっていた。メールでルートや装備については情報交換していたが、互いの資料をつき合わせて細部を検討した。
 資料ではルートは比較的よく登られていて、冬季にもトレーニングルートとして使われている。敗退したパーティもあるが、比較的簡単とした資料もあり、「行ってみれば何とかなるだろう」という甘い気持ちもあった。
 12月1日(土)先生の車で中央道を長坂で降り、登山口である“美しの森”着。今日は出合小屋まで約2時間半の行程だ。10時半駐車場を出発、林道を川俣川へ向かう。清里高原の南側でトレッキングのコースもたくさんあるようだ。40分で川原に着き、笹原の左岸を川沿いに詰める。さすが甲斐の国、信玄の昔から「川を制するものが国を制する」土地柄。砂防堤が毎年のように建設されている。再び林道に出て、地獄谷に入りテープを頼りに谷を詰めて予定通り13時前に出合小屋に着いた。小屋は高根山岳会管理の小じんまりとしているが簡素な小屋だ。
 昼食もそこそこに天狗尾根の取り付き点の偵察に行く。地獄谷から赤岳沢を詰め、登り易そうな崩壊跡を登ってそこを取り付き点に決めた。15時頃小屋に引き返し、達磨ストーブに火を入れるがまきが湿っていてなかなか燃え上がらず悪戦苦闘。矢張り八ケ岳の冬は寒い。
 夕食は先生自慢の常夜鍋(豚のしゃぶしゃぶ)。これが旨く、ビールに良く合いあっという間に6本のビールが空になる。20時就寝。
 12月2日(日)4時半起き5時半星空の下を出発。ヘッドランプで地獄谷から赤岳沢に入り、偵察通り天狗尾根に取り付く。
天気は上々、尾根に取付けば斜度はさほど無く、シラビソの混じった林を登る。夜が明けると南東には富士山、西側には権現岳の荒々しい姿が見える。
7時2100mの見晴らしの良い高地に着く。岩場が見えて愈々バリエーションルートに入る。積雪はおよそ20cm、アイゼンを着けていると危険は感じない。痩せ尾根もロープ無しで登る。
カニのはさみ9時通過。よく登られてるいる割にテープも残置ハーケンやボルトも無い。第一岩峰で道を間違えて30分ロス。11時第一岩峰からロープを出すがさほど難しいルートではなかった。
12時を過ぎ第二岩峰からは本格的な岩登り、樹木があるのでビレイ点には困らない。
 大天狗では安全を期して10mほどの岩壁を越え右を巻く。初めてロープを組むので、なかなか旨くロープが捌けない事もあり時間がかかる。
大天狗を越えて小天狗もさほど難しくない岩登り、しかしここで13時を過ぎ、帰りの時間が気になりだした。風も出て岩場歩きが不安定になった。14時過ぎ稜線に出た。
 稜線からはルートを左に取り、小雪の舞う強風の中岩場のトラバース。やっと尾根に出て下ると今度は急なガレ場の下降。
サブザックを持って来なかった私は風を喰らい飛ばされそうになる。慎重にくだり、ようようキレット小屋に着いたときは16時になっていた。小休止の後、ツルネの登り。積雪は膝を越える所もあるが体力に任せて登るしかない。稜線は風が強く寒い。
 見通しの利く明るいうちに尾根の位置を確認して下る。樹林帯に下りてほっとしたのもつかの間、夕暮れが迫ってくる。
尾根を2つ乗り越えたところでヘッドランプを取り出す。これからはかすかに残る踏跡が頼りだ。所々にテープは有るが距離が遠い。ここからは目の良い先生に先頭を任せる。谷に下りた時は真っ暗、先生は的確にルートを刻む。あっぱれ!
 18時前に高根小屋に着く。13時間の行動で何とか無事小屋に辿り着いたが、一歩間違えば情けないことになっていた。
 八ヶ岳の冬はアプローチが長いので東からのコースは人が少ないようだ。2日間踏跡は見たが人とあったのは登るときに会った1パーティだけだった。
夕食を摂りながら二人で反省会。時間配分が良くなかった(出合小屋からの往復が無理だった?)のと登攀に時間を掛けすぎたとの結論になった。20時半就寝。
 12月3日(月)6時起床。小屋からの下りは笹原を降りるので、明るくなるのを待って7時出発。
2時間半で駐車場に着く。車のラジオで中央道「笹子トンネル」の崩落事故を知る。上下線とも通行止め。
清里高原の「たかね湯」に入り、中央道を御坂で降り河口湖に迂回、大月に出て東京に戻った。

 1週間の東京近郊での充実の山旅、また退職者ならではの平日中心の旅でもあった。航空券が安くなり早めに準備さえすれば格安で行ける事がわかった。また、持つべきは気の合った山仲間だとも思った。
今後はのんびりじっくり残された山を登りたいと思う。