山のワンポイント講座(冬A「テント」)

研修担当 窪田

 講座2回目です。今月は「冬山テント生活」をテーマに採り上げます。
 山中泊山行を計画する場合、大別して小屋泊・テント泊の二つの選択肢がありますが、テント泊には次のようなメリット・デメリットがあると思います。
メリット
・混雑時期でも混むことがない(他会メンバーに気兼ねしなくて済む)
・アットホームな雰囲気が楽しめる
・達成感が違う
デメリット
・荷物が多くなる
・天候が悪い場合は気力減退
ではメリットを享受するためテント泊にチャレンジするとして、無雪期(春〜秋)と積雪期(冬)ではテント設営の仕方がずいぶん違いますので、基本的な冬山テント生活の基本を押さえます。
テント設営は皆で一致協力し素早く行いましょう。
(重要)テント設営の前にアイゼンは絶対に外して下さい。(アイゼンでテントが破れてしまいます)
▼テント設営場所
 雪山ではテントをどこにでも張れそうですが、原則として「指定地」に設営します。理由は主に次の2点です。
@自然環境保護(水場、トイレの関係)
A雪崩(風雪)等のリスク回避
 バリエーションルート上や予定外の場所にテントを設営する場合は、次の点に留意します。
B雪崩の危険がある所は絶対に避ける(急斜面、谷、崖、雪庇の上など)
C風が強い稜線上、鞍部
D可能なら樹林帯に設営する方が雪崩のリスクが少なく安全
テント設営場所選定はとても大事です。ベテランの方に指導を受けましょう。
▼整地
 設営場所にはフカフカの雪があり、そのままテントを設営すると床がデコボコになってしまいます。そこで、テントのサイズ(外張り+張り綱)に合わせたスペースを整地します。平地ならば足踏みしながら雪を踏み固め、出来るだけ平らに均します。皆で横一列になって行うと早く整地が終わります。
 斜面ならば雪ノコとスコップでブロックを切り出して平地を作ります。
この時切り出したブロックは防風ブロックに使えます。(後述)
所要時間:約30分〜1時間
▼防風ブロック(スノーブロック積上げ)
 樹林帯を外れた吹きさらしの場所にテントを設営する場合は、風雪を考慮しなければなりません。日中は風がなくても山の天気は急変しますので手を抜かないように。雪ノコで斜面や床面の雪を切り出して、テントの周りに積み上げ、防風壁を作ります。
所要時間:約30分〜1時間
▼テント張り
 整地した場所にテント本体を立ち上げます。テントやポールなどが風に吹き飛ばされたり、雪の上で滑って落ちていかないように、皆で分担し手に持ったりして無くさないように気を配ります。(テントが設営できないと命取りです)
テントは設営中に雪が入らないようにファスナーを閉じておきます。テント本体を立てたら下にグランドシートを敷きます。
 入口は、風上にすると風雪が入り、風下にすると雪が吹き溜まるので、風と直角方向より風下向きとした方が良いでしょう。(ただし常に同じ方向に風が吹くとは限りませんので良く風向を観察して下さい。)
 テントのフライは、冬用は裾(スカート部)が長くて出入口はギュッと絞れる形状になっており、裾からテント内に雪が入りにくいよう工夫されています。
 スカート部には雪又はスノーブロックを積んでバタつかないように押さえます。
 張り綱は竹ペグで固定します。雪が締まらず竹ペグが効かない場合は、ピッケル等で代用します。
▼飲用水の確保
 冬山では行動中の水以外は基本的に雪を融かして作ります。(テン場で水が確保できる場合もありますが稀です)テント設営からテント中に入るまでの間に飲用水を作るための雪をポリ袋に入れ、テント入口に置いておきます。
飲用水ですから、きれいな所から取るように!
所要時間:約15分
▼トイレの確保
 指定場所では山小屋のトイレを使います。指定場所以外では、テント近くの夜間でも移動が安全な場所にシャベルで穴を掘ってトイレを作ります。ただし自然が汚れるので目立たぬ場所に!
 
所要時間: 約15分
▼テントの中(その1)
(重要)テント内に雪を出来るだけ持ち込まない。雪が融けて不快の元です。
 まず一人が先に靴・衣服の雪を落としてテントに入り、テントマットを敷きます。(雪落としは「たわし」が便利)この時、靴は履いたままで良い。自分・他のメンバーのザックの雪をたわしで落としてもらいながら全てテントに入れます。
外で待機しているメンバーは、飲用水用雪を取ったり、トイレを掘ったりテキパキ分担して作業を行うこと。(前述)
 テントの中が落ち着いたら、各自が衣服・靴の雪を落として順番にテントに入ります。
テントは狭いのですが、物が行方不明になりやすいので、自分の持ち物はしっかり管理すること。
自分のエアーマットを先に膨らませて床に敷きます。
次に共同食料・ガスコンロ・まな板等の共同装備を出します。
テント中央はガスを設置しますので空けます。
不要な荷物はザックに入れて隅に寄せ、スペースを確保するようにして下さい。
 
所要時間:約30分
▼テントの中(その2)
 ガスを点けるとテントの中は急速に温まりそれまでの寒さが嘘のように暑くなります。
ガスを点けたら、ベンチレーションは必ず開け、テント入口も少し開けて酸欠に十分注意します。
また、テント内は窮屈ですから、不要な動きでガス・コッフェルを倒して火事や火傷をしたり、マット・衣類を焦がしたりする可能性がありますので、薄手手袋着用、動く時はガス・コッフェルを支え、ガスを倒したり当たったりしないように気を配ることが大事。

 ガスが点いたらまず飲用水作りです。ポリ袋から雪をコッフェルに入れドンドン融かして水を作ります。
雪だけだと融けにくいのでお湯か水を掛けると融けるのが早くなります。
全員のテルモス分にお湯を、ポリタンには食事に合わせた水を入れます。
水を作るのと並行して、食事の段取りや、アルコールで乾杯もいいでしょう♪(ここら辺はお任せ)
所要時間:約1〜2時間
▼テントの中(その3)
 宴も済んで寝るときにはガスやコッフェル類はまとめてテント外張のスペースに置いておきます。(邪魔にならなければテント内でOK)
残ったポリタンの水は凍るので、シュラフの間か中に入れ凍らないようにします。ではGood night!
 なお、積雪がある場合は、酸欠になる恐れがあるので、夜間も交代で雪下ろしをして下さい。
▼テント撤収
 テントの中で衣類を着け、靴は履いて外に出ます。
設営とは逆の順番でテントを撤収します。
竹ペグは凍って外しにくいかもしれませんがゴミになるのでピッケルで掘って回収しましょう。
ただしピッケルでテントを傷付けないように注意!また、使ったトイレは雪で埋めておきましょう。
所要時間: 約1時間

【ワンポイント】
・設営場所に気を付ける(特に雪崩)
・テントを傷付けない(アイゼンは外す)
・テントの部品を無くさない
・テント内での火気・酸欠・火傷に注意
・皆で協力する(疲れているのは皆同じ)
・テントの外では手袋着用(凍傷防止)