1876例会 南アルプス 塩見岳

三田 T

 塩見岳は、南アルプスの中央部に位置する3000m峰で、南アルプス北方の山群(北岳、間ノ岳等)や南方の山群(荒川三山等)から離れており、独立峰のごとくピラミダルな山容を示していることから登高意欲をそそられる山である。
山名の由来は山頂から駿河湾が見えることから「汐(しお)の見える山」が有力となっているが、山麓に塩の産地があり、鹿塩(かしお)といった集落や塩川という地名があるのも無縁ではなさそうだ。
 塩見岳の例会は天候の状況等により三伏峠で撤退した7年前の2012年の年末以来の例会である。
今回のメンバーは小生と、吉村さん、下さんと宏太君の4人。山行に備え、小生と吉村さんは12/7に岩屋山頂を3度踏むボッカトレをこなす。
 今冬は暖冬傾向であったが、12/27現在の天気予報で山頂アタック予定日である12/31を含めた12/30~1/1は寒波が襲来し、塩見岳山頂の風速は30m超で登山不適との情報。
翌12/28現在の情報では1/1のみが登山適に変わっていたが、登頂の可能性を鑑み、期間中の天気が良さそうな九重で初日の出を拝む変更案も含めメンバーで協議した結果、予備日を使い塩見山頂アタックを1/ 1に変更して予定どおり塩見岳へ行くこととした。
 12/29(日) 8:30下さんのフリードプラスで三田邸を出発。収納スペースが広く4人分のザック、冬山装備も楽々積み込める。
往路の道中では幸い渋滞もなく、また降雪によるチェーン装着をすることもなく順調に車を転がすことができた。
最近の車は車線維持支援システムや車間距離を保つクルーズコントロールなど運転支援機能が充実しており、ドライバーの負担が軽減され、その進歩には驚く次第である。
 この日は中央自動車道の恵那峡SA手前のPAで幕営を計画(SAは賑やか過ぎるので)。
SA手前のいくつかのPAに立ち寄り、幕営できるかどうかチェック。20:30に2か所目の虎渓山PAで木陰の下のスペースに雨の中、吉村さんのテントを張る。
フードコートも閉まったあとで人が立ち寄ることは少ないが、本線を走る車の音が結構大きく、よく眠るには耳栓が必要と感じた。
 12/30(月) 5:30起床。相変わらず雨が降っている。
テントをたたみ出発し、恵那峡SAで朝食を済ませ、テルモスへのお湯の補給、それと各自ポリタンへ2Lの水を補給する。
高速道を松川ICで降り、今回のアプローチルートである鳥倉林道の冬季ゲート手前に車を停め、身支度を整える。
駐車スペースはそれなりに車が駐車しているので上部でのラッセルはないと判断し、ワカンは置いていくことにした。
ここから登山口までは通常のコースタイムでは約2時間。
標高約1400mを超えているにもかかわらずこの時期としてはあり得ない雨がショボショボ降り、また、水も担いでいるのでピッチもあがらない。
途中出会った下山中のパーティからはこの長い林道こそ核心部と言われる(笑)。
2時間42分コンクリの林道を歩き、ようやく本日の幕営地である登山口に着く。
積雪はあるが水を作れるほど多くはない。これも暖冬の影響か。登山口からかなり手前に水場はあったが、燃料節約のためにも水を担いできてまあ正解だったと思うことにしよう。
 なお、7年前のアプローチとして使った塩川ルートは事前情報によると道路崩落のため徒歩での通行も不可となっている。
 雨の中、モンベル4人用テントを素早く張り、夕方からは小宴会。
何と食当の吉村さんは、じゃがいも、キャベツ等の生野菜を担ぎ上げてきている。
本日の夕食はベーコンスープ。各自持ってきたビール、焼酎、ウイスキーで喉を潤し、腹一杯になって19:00にシュラフに潜り込む。
 12/31(火) 4:45起床。ようやく雨は止んでいる。
荷物を少しでも軽くするために昨夜の宴の残骸をデポし、出発する。
アイゼンをつけるまでもなく登山道を一歩一歩登るが、ヒマラヤトレッキング帰りの下さんからビスターリビスターリ(ゆっくりゆっくり)と声がかかる。
 鳥倉登山道は三伏峠まで1/10ずつ標識がついており、これが休憩の目安となる。
3/10を少し過ぎたところが豊口山間のコルで、ようやくアイゼンを着ける。
途中何度か休憩しながら登山道を進むと塩川ルートと合流するが、塩川ルートの下降点にはロープが張られており踏み跡もなく、やはり今では使われていないルートのようだ。
 三伏峠に近づくにしたがって風が強くなり、また、雪も降ってくる。ようやく着いた三伏峠は地形図に記載されている日本一高い峠(2580m)である。
風が強いためここでテントを張っているパーティはなく、冬季小屋に退避していると思われる。
三伏峠小屋前で小休止した後、我々は幕営適地を求めさらに先に進む。
約1時間歩いて三伏山と本谷山間のコル(2498m)をテン場と決め、2日間お世話になるので念入りに整地してテントを張る。
このコルはテント一張りがやっとだが、樹林帯のためこの日の強風でも風を遮ってくれて快適なテン場である。
 13時すぎにテント設営を終了。
水を作るために雪を溶かすなどしていると、あっという間に時間が過ぎる。
作業が落ち着いたところで持ってきたつまみとビールで翌日の登頂成功を祈り乾杯する。
本日の夕食はウインナースープ。
 15時過ぎに外で声がするのでテントから顔を出すと、5~6人のパーティが下山してきたので塩見岳まで行ったかどうか聞いたところ、ガスと強風のため塩見小屋まで行くのが精いっぱいで撤退してきたとのこと。この風では止むを得まい。
テン場は樹林帯とはいえ風の音は相変わらず大きいが、スマホの天気図で元旦は冬型の気圧配置は緩むことを確認する。
明日はいい天気になりそうだ。作った水が凍らないようにポリタンを抱いて19:00頃シュラフに潜り込む。
夜半まで風が強く猛烈に冷え込み、なかなか寝付けない。
日付けが変わってAM1:30頃、2パーティが塩見岳頂上での初日の出に間に合うようテントの横を通り過ぎていった。
 1/ 1(水) 3:30起床。テントの中は霜でバリバリである。外に出ると夜空は満点の星。
風も弱く予想どおり絶好のアタック日和である。ただし、風が弱いのも午前中までとの予報で、塩見頂上までの往復が約8時間かかることから時間も気にしながらのアタックとなる。
この日はアタックに必要な行動食、飲料と共同装備(補助ロープ、ツェルト、ガスカートリッジ、ガスボンベ、食器)なので荷も軽く、順調に歩を進める。
本谷山付近でうっすらと明るくなり日の出も近い。どんどん下ると平坦な森となってテントが一つ張ってあるところで小休止。ここまで2パーティを追い抜く。
権衛門山の南面をしばらくトラバースして登り上がり、塩見小屋を通過する。
小屋を過ぎると急斜面の雪と岩のミックスした岩稜登りとなり、稜線のところどころではさすがに強風が吹きつける。
偽ピークとも言える天狗岩を越え、さらに岩稜を登りきると斜面が緩やかになり塩見岳西峰(3047m)に辿り着く。
そのまま歩を進め最高点である東峰(3052m)にちょうど10:00に達し、メンバー4人でがっちり握手を交わす。
 頂上は思ったより風が弱く、雲一つない晴天のもと、360度の大展望を満喫する。
日本の山の標高ワン、ツー、スリーである富士山、北岳、間ノ岳はもとより、仙丈岳、甲斐駒ヶ岳、荒川岳、そして遠く中央アルプス等々、名だたる峰々が一望できる。
そういえば、荒川岳にはまだ登っていない。いつか登ってみたいものである。
ゆっくりと写真タイムを取ったのち、風が強くなる前にと山頂を後に、より安全を期して慎重に岩稜帯を下る。塩見小屋まで下ればもう安全地帯。
小屋から少し下った風の弱い稜線の途中で南アルプスの山々は見納めとあって少し長めに休憩し、さらに今回の主役である塩見岳の全貌が見渡せる本谷山で休憩する。
朝出発してから約8時間30分かけてテン場に戻る。
前日が悪天とあって入山者が少ないのか、この日に塩見岳に登頂したのは我々を含めて十数人程度であった。
 テントに入ると、ポリタンに少し残っていた水が凍っている。
せっかく担ぎ上げてきた缶ビールも凍っており、水を作りながらガスバーナーの脇で温めたり、湯煎したりして飲める状態に戻し、登頂を祝して乾杯する。
令和2年元旦は幸先の良いスタートとなり至福のひと時である。
本日の夕食はフリーズドライのクリームシチューとボロニアソーセージ。つまみと焼酎で腹いっぱいになって20時過ぎに寝る。
 1/ 2(木)3:00起床。冬型は緩み昨日よりは気温は高い。今日は下るだけなので気も楽だ。
三伏峠では入山したときと違い好天とあってテントがいくつも並んでいる。
どんどん下り3時間ちょっとで登山口に着く。
東京から来たという男女2人組から写真を撮ってもらい長崎山岳会のHPの宣伝をして、デポしていたゴミを回収し長い林道を下る。
往きと違い、荷が減っていることとだらだらの下り坂なので、足取りも軽く約2時間で駐車場に戻る。
 荷物を車に積み込んだ後は温泉ということで、事前に調べておいた鹿塩温泉の塩湯荘(600円)はちょいとぬるめの湯でなかなか体が温まらなかったが、汗を流しさっぱりする。
ちなみに鹿塩温泉は標高750mのところにあるが、海水とほぼ同じ塩分濃度だそうだ。
 温泉入浴後、JR飯田線伊那大島駅の駐車場で共同装備等の荷物を整理し、駅前に待機していたタクシーの運ちゃんから聞き出した駅近くの塩沢屋酒店で伊那の地酒をゲットし、長崎への帰路につく。
途中京都付近で若干の渋滞はあったが、ほぼ順調に走り、長崎へは日付が変わって1/ 3の午前2時過ぎに到着、2020年最初の山行を無事終える。
 還暦を迎えて初めてとなる厳冬期の山行は、2年前の左膝のケガの違和感はまだあったものの、荷を担いでの歩行に影響はほぼなく、両手ストックをうまく使えばまだまだ重い荷物を担いでも大丈夫と感じた次第である。
加えて、これから就職を控える宏太君の発想や知識に、第2の人生を迎えるおじさんはいい刺激を受けた山行になったことを感謝したい。
コースタイム:
12/30 鳥倉林道冬季ゲート9:48~12:30鳥倉登山口(幕営)
12/31 鳥倉登山口6:30~8:30豊口山間のコル8:40~10:57山伏峠11:05~12:10 標高2498mのコル(幕営)
1/ 1 幕営地5:25~5:58本谷山6:00~塩見小屋通過(8:11)~10:00塩見岳東峰10:30~13:40本谷山13:45~14:00幕営地
1/ 2 幕営地5:00~5:55山伏峠6:05~7:30豊山口間のコル7:40~8:10鳥倉登山口8:30~10:40鳥倉林道冬季ゲート
参加者:
 CL:三田T、下松八重、吉村  計3名 会員外1名