第1816例会 北ア・下の廊下

田尻 S

10月1日(月)
 台風24号の進路と勢力に、やきもきしながら様子を見ていたが、計画の9月30日を1日ずらし、10月1日出発に変更する。
長崎を早朝に出て新幹線で名古屋までは順調にいったが、名古屋からの「しなの」が台風24号の影響で信濃大町到着が遅れ、最終のトロリーバスには到底間に合わない。
宿泊予定の「ロッジくろよん」にキャンセルの電話をする。急遽大町駅前の七倉山荘を予約、宿泊出来てラッキーであった。
10月2日(火) 曇
 扇沢始発のトロリーバスに間に合う様、タクシー2台に分乗し扇沢へ。
切符売り場には登山服姿と観光客は半々か、7時30分発の始発に乗り込む。
針ノ木雪渓や柏原新道を登る時、横目で眺めるだけのトロリーバスに初めて乗る。
トロリーバスを黒部ダム駅で降り観光客の流れと別れ、旧日電歩道への案内に従いカレ谷標識で建物の外に出る。ここから、いよいよ下の廊下への乗り出しである。
サポート隊女性2名と別れ、8時に下り始める。「ロッジくろよん」泊からすると2時間の遅れである。
天気は曇りであるが台風一過を思えば上々である。
ジグザグの下り道を黒部川まで下り切るとダムが良く見える。ここで左岸に板橋を渡る。豪快な観光放水は此処からは思ったほどでは無い。
 内蔵助出合いで一服し、今から本格的に岩壁をへつる道を行くのに気合を入れる。
我ら4人のパーティは先頭田尻、二番手平田、サード金木、殿は東の順とする。ここからは他のパーティ(2名組、単独等)と前後して進む。
割と易しい道を行くと黒部川近くまで道は下がり、雪渓が現れる。今年はそれでも例年に比べほぼ無いのに等しいとの事。
別山岩屋を過ぎた頃より岩壁を削り、刳(く)り貫いた歩道が出てくる。新越沢出合いで三段に連なる滝を 眺め進むと、大ヘツリの梯子段に着く。
梯子は取り付きがほぼ垂直で緊張を強いられる。
更に岩壁を削り出した道を慎重に進み黒部別山谷出合いに着く。
ここまでは登山道の整備はほぼ終わっていて、整備に感謝。
別山谷出合から十字峡までは岩壁の道を行くが、未だ整備が終わってない箇所もあり、作業員の方々が黙々と作業している。
ただこの作業、大変な下支えが有り、岩壁の道を6mの丸太運搬や下整備、草刈り等でやっと作業できる。
通過させて貰う時は「コンニチワ」ではなく「ご苦労様」「ありがとうございます」と声をかけて行く。
十字峡手前では、岩壁を伝って来る流水シャワーの1回目を浴びる。
この「下の廊下」ルートのハイライトと言うべき十字峡に着く。ここで充分時間を取りたい所だが、出発が遅れた分、吊橋の上からの写真撮影だけで我慢する。
とは言え本流(黒部川)に棒小屋沢と剣沢が正しく激流となり十字に合流する様は圧巻である。
遥か眼下に見える圧倒的な黒部川V字渓谷、そのS字峡が青き龍の如くうねって見える。
それにしても、この渓谷の水の美しさは何であろう、透き通ったコバルトブルーと岩礁に泡立つ白色のコントラスト、文面に表せない轟々たる流れが相まって魂を揺さぶる迫力である。
S字峡を過ぎると、2回目のシャワー洗礼を受ける。しばらく行くと黒四地下発電所からの送電線出口が見え、まるで宮崎駿監督のアニメの様だ。
東谷の吊橋を渡り久しぶりの人工物である仙人谷ダムが見える。
ダムの施設内を通り、関電人見平宿舎の前を過ぎて、いよいよ権現峠へ向けての登りである。
この登り、8時間以上緊張の連続で歩き通してきた身体にはかなり、いやいやそれ以上に応える、何せ平均71.5歳である。
20分超で権現峠に着き、後は少しの起伏はあるもののほぼ水平道である。
途中に赤い屋根が林の中に見え阿曾原温泉小屋の一部かと思い、もう少しと仲間を励ますが、行けども行けども、それらしき小屋は見えず少し焦る。やっと下りの道にたどり着き、阿曽原温泉小屋へと急ぐ。
夕方5時半を過ぎると谷間の林の中は急速に薄暮が迫る。一人が受付の為先を急ぐ。これは今日黒四ダムを出た20人程の登山者の殿であろう我々の到着を知らせる為でもあり、小屋主の佐々木氏にその日の安堵をもたらす為でもある。
割り当て部屋で荷物を整理していると、食事ですよ~と声が掛かる。今日は宿泊者が少なく、名物のカレーではなかった。
食事の後、これまた名物の露天風呂に行くが、周りは真っ暗。10分程下り、露天風呂ではヘッドライトを頼りに、服をその辺に脱ぎ散らし風呂に入る。8年振りの阿曾原温泉露天風呂、月か星が出ていれば情景として申し分ないのだが。
番外逸話
阿曽原温泉小屋の主人である、佐々木泉氏が阿曽原温泉小屋のブログで、我々を長崎の4人組として紹介しています。下記の文はブログの原文で関係部分をそのまま紹介します。
「阿曽原温泉小屋 登山情報 危険な作業 10月3日」
原文
  『 昨日「下の廊下」を歩いて来られた長崎の4人組の一人は「危険な作業を見て、ありがたくて涙が出た」って仰っていました。通過される際は「声掛け」よろしくお願いします。』
10月3日(水) 晴
 今日はユックリ発で欅平経由、祖母谷温泉までで楽なはず。
阿曽原温泉小屋を7時過ぎに欅平までの水平歩道へ出発する。水平歩道とは言え最初と最後に急登と急下降が待っている。
小屋を出て暫くすると急登が待ち受けひと汗かいて登る。此れより先はほぼ水平歩道が続く。
この歩道、岩壁をへつるか又はコの字に穿った道が延々と続くのである。
水平歩道は壁側の反対は常に200m~300mの断崖絶壁である。躓いたりバランスを崩すと「サイナラー」である。
ここでの諺に「黒部に怪我無し」とあり、滑落すると怪我ではなく、死亡事故になるとの例えらしい。
水平歩道の壁側に張ってある番線を頼りに緊張し且つ歩みを緩める事無く進む。
途中名所となっている、志合谷の下を刳り貫いた真っ暗なトンネルを過ぎると、大太鼓展望台である。ここは撮影ポイントであるがふざけていると「黒部に怪我は無し」の所である。
志合谷を過ぎると歩いて来た道が対岸となり水平歩道の様子がよく見え、先人の頑張りと執念には現代の我々は頭を下げるしかない。
此れより50分も行くと欅平の上部に着き水平歩道も終わりとなる。
遥か手前で欅平でのトロッコ列車の音や、黒部第三発電所の建物が見えていたが気分的には遠かった。
水平歩道の終わり(始まり)の下りは地図で20分となっているが、急な下りに足がガクガクと浪打つ始末。
途中サポート隊2名が出迎えてくれた時は、心で感謝するが「おぅ」と照れ隠しの一言。
 昨日の疲れが抜けきっていないのか今日は疲れた。しかし暖かい蕎麦と充分な休憩で元気回復、祖母谷温泉へは50分。4年前の懐かしい露天風呂へ晩朝3回入る。
きつい、緊張、笑いの2日間であり、記憶に残る山行であった。3人の仲間に感謝。
参加者:
本隊 CL:田尻S、東T、金木、平田T
サポート隊 石川S、田尻H   計6名
コースタイム):
10/1 長崎5:58=博多=名古屋=松本=信濃大町17:00 移動時間11時間02分
10/2 信濃大町6:00=6:30扇沢7:30=7:50黒部ダム8:00~9:00内蔵助谷出合 9:10~11:30別山谷出合11:45~14:05十字峡14:15~16:05東谷吊橋16:15~16:30仙人谷ダム16:35~17:40阿曽原温泉小屋       行動時間 9時間40分
10/3 阿曽原温泉小屋7:00~9:40折尾大滝9:50~13:20欅平14:30~15:10 祖母谷温泉
           行動時間7時間10分
10/4祖母谷温泉8:00~8:40欅平     行動時間 40分
    欅平9:37=宇奈月温泉=黒部宇奈月温泉=金沢=新大阪=博多=長崎20:54
          移動時間 11時間17分            

参加者:
本隊 CL:田尻S、東, 金木、平田T
サポート隊 石川S、田尻H 計6名