第1632例会 南アルプス(甲斐駒・仙丈)

窪田 紀幸

 今年の年末のアルプスは冬山経験者が二人だけなので厳しい北アルプスは避け、北が荒天でも晴天の可能性が高い南アルプスに山域を決定。
久しぶり(1999年末以来)の甲斐駒ケ岳と「南アルプスの女王」仙丈ヶ岳を目指そうと予報を出す。
 結局、参加申込みは大塚さんだけで、メンバーは三田・大塚・窪田の3名となり、最近では珍しく少人数編成になる。
 大塚さんは冬山が初めてであるが雪山(昨年GWの春山や2月の大山)を経験しているし体力的には十分、コースも冬山入門ルートなので参加をOKする。
 12/15に最終打合せを行って計画書と装備の確認を行った。
 出発数日前から天候をチェックしていたが北海道方面に4つ玉低気圧が発生。年末の日本海側は大荒れなるも太平洋側は晴天が期待できるとの予報。
 寒気と強風が気になるが、久々に冬の3000m峰を登頂できそうで期待に胸が膨らむ。
▼12/27(金)、会社が終わると同時に急いで帰宅し荷物の最終チェックを済ませ二人を待つ。予定通り19:30に集合し三田車へ荷物を詰めて20:10出発する。
 運転手が3人なのでいつもより交代の順番が早いが、後部座席の即席ベッドでゆったり横になりグースカ寝ながら戸台へ向かう。
 寒波の影響で彦根〜関ヶ原付近のお約束の雪のノロノロ運転以外は問題なし(三田さん深夜の運転お疲れ様)。
▼12/28(土) 戸台河川敷に下りるまでの路面が凍っていてひやひやしたが9:30戸台到着。
 駐車場には先客の車がたくさん駐車してありテン場が賑やかそうな予感。所どころ青空も見えて日差しもあり天気はまずまずといった所。
 空気はピリッとしている(−5℃)。雪は13年前と比べて多い。身支度を整えて出発する。
 川沿いに上流へ向かう。途中1回渡渉するがルートは先人に踏まれてしっかりしており楽に進める。
 八丁坂の急坂で三田さんが高速の運転疲れか若干ペースが落ちる。“足が登山モードになっとらん”とは本人弁。
 大塚さんは日頃の鍛錬の成果か快調の様子。
 なかなか登りがつらい東大平を抜け、少しあたりが薄暗くなって16:30北沢峠到着。北沢駒仙小屋(長衛小屋)テン場へ向かう。
 17:00駒仙小屋テン場に到着、既にテン場は色とりどりのテントが並んでいる。積雪は50cmぐらい。
 出来るだけ小屋に近い所にテントを張ることにする。
 設営場所の雪を固めようと踏むが、雪が乾いているのでいくら踏んでもフカフカして締まらない。いい加減であきらめてテント本体の設営にかかる。
 今回は吉村さんのテントを借りて来たが、ポールを継ぎ足す方式なので急いでいるときは設営がやや面倒。
 暗くなり始め急激に気温も下がって来たのでヘッドランプを出して大急ぎで設営。
 水場はテン場横の沢からポリタンとコッヘルに汲む。雪から融かさなくて済むので有り難い。
 コッヘルで水を汲むと灰のような白いものが混ざっている。ゴミはないはずなのにおかしいなーと良く見ると水に雪片が舞い降り融けずに形を保ったままになっている。
 水も凍る寸前なのだろう。フリース手袋に水が掛るとあっという間にバリバリに凍ってしまう。
 テントに入ると別天地。ストーブを付けて暖をとる。
 そんな最中、大塚さんがもじもじして「済みませ〜ん。右手が何か凍傷になったみたい」。「見せてみらんね」と手袋を取った右手の指先を見ると何だか白っぽく膨らんでいるよう。
 どうしたのかと聞くと、テン場について素手でザックのファスナーをいじっていたら指先に雪が付いて凍ってしまったとのこと。(子細は本人メモ参照)
 テント設営の数分の出来事だったらしい。そういえばテント設営前に大塚さんが一人何やらゴソゴソしていたような…凍傷になったりするから素手で触ったりしたらだめですよと登山中注意はしていたが既に後の祭り。
 リーダー・サブリーダーで「仕方ないが大事をとって下山し、すぐ病院へ」と即意見が一致するが、念のため山小屋のアドバイスをもらいに出る。
 結果やはり「下山して見てもらった方がいいですよ」と。山は逃げない体が大事、明朝下山することに決定する。
 大塚さんはすごく意気消沈、我々も同じであるが気を取り直して酒盛りを始める。出来るだけ担ぎ下ろす量を減らすため豪勢な夕食。
 周りのテントは寝静まり、声をひそめて夜は更け22:00就寝。
▼12/29(日)4:15起床。夜は風が強くテントもバタバタ云っていたが明け方には静かになっていた。トイレに出た三田さん曰く満点の星空。
 大塚さんの凍傷にやられた右手は相変わらずジンジンするそう。昨夜とあまり症状は変わっておらず少し安心。7時過ぎにテントを撤収。
 谷から見上げる空は快晴で雲ひとつなく、小仙丈が朝日にキラキラ輝いている。後ろを振り向くと摩利支天だろうか先がちょこっと覗いている。
 8:10下山。東大平からは時折仙丈ヶ岳のピークが望める。ドンドン下って12:35戸台着。空の車ばかりで誰もいない。
 伊那市街に戻って伊那消防署で伊那中央病院を紹介され救急に飛び込む。
 暮れの病院は大賑わい、大塚さんが治療を受ける間に申し訳ないながらも我々は大芝の湯でひと風呂浴びて戻る。
 1時間後、大塚さんの右手は包帯のぐるぐる巻きに。そのまま長崎の帰途に就いた。
 まさかの凍傷で断念せざるを得なかったが山は逃げない、またの機会に甲斐駒・仙丈を目指すことにしたい。

右奥に摩利支天(北沢駒仙小屋テン場から)

右奥が仙丈岳ピーク(東大平から)

戸台付近から甲斐駒方面を望む



幻の『南アルプス甲斐駒・仙丈』

大塚 佐恵子

 2013年冬のアルプスは「主力メンバーが二人のみ」、「北アルプスは荒天」ということで南アルプスに決めたと聞く。
 「10年早いと言われた冬のアルプス」、今回は南アルプスでレベル3。こんなチャンスはないと参加を申込み、OKがでた。それが大誤算となる。
▼12月15日、事前打ち合わせ・共同装備の準備、個人装備のチェックも終わり準備万端。
▼22日・23日、アイゼンワークのトレーニングを兼ねドカ雪の降った久住で、霧氷もお腹いっぱい満喫し、凍った大船の御池で遊び、長い時間アイゼンを付けての歩行もでき、冬山に少しは自信がもてたつもりだった。
▼12月27日午後8時窪田邸を出発。真夜中の高速を交代で運転し翌朝8時伊那ICを降りる。
 戸台まで順調に車を走らせるも駐車場に降りる大曲の坂の手前でチェーン装着。
 9時23分戸台着(気温−5℃)駐車場は他県ナンバーの車で賑わっていた。スペースを確保、駐車し、冬山登山の身支度をする。
 幕営地となる北沢駒仙小屋までの移動が一日目の行動。
 10時戸台発。ピッケルを手に長い長〜い雪道を歩く。あたり一面銀世界。いきなり急登の崖には重いザックに踏ん張りがきかず崩れ落ちること数回。
 2年前の5月の残雪を思いだす。それ以外はひたすら幕営地を目指してボッカ。
 途中渡渉したり、ダムを越えたり、変化はあるが長い。時々下りてくる登山者と挨拶を交わし、道を譲りあう。
 「手が凍傷になったかも」と不安を訴えられ、窪田CLが冷静に応対する。しばらく行くと動けなくなって休んでいる人がいた。
 「足がつって予定よりかなり遅れる」と山小屋にいる仲間に伝言を頼まれる。
 長崎から徹夜で運転後の冬山登山は体に堪える。一番睡眠がとれてない三田SLがちょっと遅れる。
 よく見ると半端ないザックの大きさ。「ボッカ訓練不足」だと反省。
 窪田CLがコッヘルとツェルトを預かると、三田SLの足取りは軽くなり、窪田CLの足取りが重くなる。ザックの荷重ってこんなに影響するんだと学ぶ。
 そうこうするうちに17時北沢駒仙小屋(幕営地)着。幕営地の状況は標高1988m、気温:−10℃〜−15℃、積雪約30センチ(乾雪)天気晴れ、時々風あり。
 テン場も満員で山小屋に近い空地を探してテント設営、あたりはすっかり暗くなり、各テントから灯りが点り、夕飯の匂いがこぼれてくる。
 水汲み、夕食の支度も終え、温かいテントの中で生き返る。お酒と夕飯に舌鼓を打ち、就寝。時折、突風にテントがざわつくが朝まで我慢する。
▼12月29日朝を迎え、お湯を沸かし、朝食。〜外に出ると昨夜の風が嘘のように天気は快晴。予定の甲斐駒ガ岳は30日に変更、先に仙丈岳を制覇するぞぅ。
 地蔵岳の巻き道を歩き、繊細な霧氷の中を歩き、森林限界を超えた所で中央アルプスと伊那谷が一望。
 仙丈岳の女王が隠し持つ猛々しさと雄大な優しさに感動しながら大仙丈の稜線を歩く。
 富士山と北岳、突き抜けるような青空と真っ白な雪をまとった山々、そびえ立つ樹氷が目に入ってくる〜はずだった。
 実際は12月29日8時10分幕営地発12時30分戸台着で甲斐駒・仙丈を眼の前にして登らず、長崎へ帰ることになった。
原因は大塚の雪山にあるまじき初歩的なミスで右手が凍傷になり、有無をいわず下山となった。
▼12月28日午前10時戸台を出発して2時間ぐらい歩いた頃、陽気もよく暑くなったので、インナー手袋を脱いで、アウターだけで行動していた。
 17時北沢駒仙小屋に着いてテント設営をするのにアウターでは細かい作業ができないのでインナー装着までのわずかな時間に事件はおこった。
 素手になった時、ザックが倒れ起こそうとした時、雪を手に被り、ヤバイと思った。
 インナーをようやくはめるも、すでに指が変になっていてきちんとインナーもはまらぬまま上からアウターをあて、テント設営に参加。
 テントに入り、落ち着いて指を見ると、右手5本の指の第一関節から上の部分が腫れ、ジンジンと痺れが止まらない。
 夕食を終え午後7時頃、窪田さんに同行してもらい山小屋に相談に行く。「凍傷だね。できる限り早く下山した方がいい」と助言を受ける。
 リーダー達の判断で翌朝下山と決まっていた。「朝になったら治っていて」と祈りながら右手は手袋の中でグーをし、懐の中に入れ温めて寝る。
 祈りも虚しく青空の下、昨日登ってきた道を下る。荷物も一向に減らず重い。二人に「ごめんなさい」の重さも肩に食い込む。
 下山後すぐに消防署でいい病院を紹介してもらい伊那中央病院で緊急診療を受ける。
 緊急医療の女医さん診断で凍傷。長崎に帰ったらすぐ形成外科へかかりなさいと、感染症を防ぐ「ゲンタシン軟膏」を処方してもらう。
 長崎記念病院診断結果:凍傷2度。未だ、ジンジンと痺れ、腫れはひかない。人差し指の変色は進み、皮膚は堅く盛り上がる。
 切開するまではないとこのまま観察。膿が出たり、負傷した皮膚が剥がれ、再生するのを待つしかない。
 冬のアルプス、氷点下では決して素手で作業してはならないのに、雪山の知識不足と準備と段取りの悪さでこのような事態をまねき、他の二人に多大な迷惑をかけてしまった。
 今後このような悲惨な登山にならないよう、深く反省し、具体的な対策(テント設営の実践、ロープワークの練習など日頃から慣れ親しんでおくなど)や山に入るには予習、念入りな準備をおこたらないことだ。まさか指が雪に触れただけで凍傷になるとは思いもしなかった。それだけ雪山の知識がなかった。「10年早い」の言葉の意味をよく咀嚼・反芻すべきだった。2013年は終わりまで反省の年だった。この反省を生かし2014年には素敵な山登りをしたい。自分だけではなく、長崎山岳会に貢献できるようになりたい。今後「幻の…山」にはしたくない。

無念の下山(北沢駒仙小屋テン場にて)
コースタイム
12/27(金)20:10長崎〜
12/28(土)09:30戸台09:55〜12:30角兵衛沢案内板〜16:30北沢峠〜17:00駒仙小屋(テン場)
12/29(日)駒仙小屋08:10〜08:26北沢峠〜12:35戸台


山のワンポイント講座(冬@「凍傷」)

 年末の山ではちょっとしたことから凍傷になり痛い思いをされました。シーズンに合わせたちょっとしたワンポイントを掲載し、安全山行につなげたいと思います。3月には大山山行がありますので「凍傷」をテーマに採り上げます。

【凍 傷】
 凍傷は、低温が原因で生じる皮膚や皮下組織の傷害である。極度の低温はもちろん、0℃を少し下回る程度の温度でも長時間さらされると生ずる。
 しもやけ(凍瘡)は、寒さのために血行が悪くなり生じる炎症のことであり凍傷とは異なる。
 0℃以下の環境で皮下の血管は収縮を始めるが、これは中枢の体温を逃がさないための保護作用である。
 極度の低温もしくは長時間の寒冷下にさらされるとこの保護作用によって皮下の血行は極端に悪化し、部位によっては血行不全に陥る。
 こうした部位はやがて凍ってしまう。低温に血行不全が重なることによって体組織は凍結し深刻な損傷が生じるのである。
 凍傷は心臓から遠い部位および寒冷にさらされる表面積が大きい部位に最も生じやすい。また積雪期の山や高山では凍傷になる危険性が最も高い。
 好発部位としては四肢の指が最も多いが、耳や鼻、頬などにも発生する。
 
【症 状】
・第1度:一般的に凍傷は皮膚の変色に加え、灼熱感やうずくような感覚、部分的・全体的なしびれ感、そして時に激しい痛みを伴う。
・第2度:もし治療が行われないと凍傷に冒された皮膚は徐々に黒くなり、数時間後には水疱が生じる。
・第3度:患部や血管が高度に傷害されると壊疽が起こる。最終的に切断が必要となることがある。
・第4度:程度が著しい場合は筋肉や骨にまで壊死が起きる。
 (参考wikipedia「凍傷」)
 
【ワンポイント】
 冬山で注意したいことはたくさんありますが、凍傷に罹ると行動に制限が出て自力下山できなくなりレスキューを要請する事態になる可能性が出るばかりか、症状が重いと指の切断ともなりかねません。
 注意事項としては、
・外気に直接皮膚をさらさない
・皮膚を濡らさない
・顔面(頬・耳たぶ・鼻)、手先、つま先に凍傷が出来やすいのでジンジンする前に帽子・手袋等で保護し、積極的に動かし血行を良くする
といった対応をとることが必要です。
 具体的な部位ごとのワンポイントです。
▼手:手袋は常時着用が大原則。今は、インナー手袋とアウター手袋の二重のものが多いので、テントを出る前にインナー手袋は最低着けておきましょう。
 濡れたら乾いた手袋に変えるとよく言われますが、今の冬山用手袋を二重にしていたらよほどのことがない限り凍傷にはならないので、一日の行動を終えてテントに入るまで手袋は替えない方がましです。もし替える場合も、手袋を外す時が一番危なく、外気にさらされるので、予備インナーに替える時でも素手には決してならないことです。
 ピッケルを持って歩くと、手袋をしていても手先がジンジンする時がしょっちゅうあります。ピッケルを持ち変え、ジンジンする指を積極的に動かして血行を良くするよう心掛けて下さい。
 さらにもう一点、アイゼンやワカンを履くときに手袋ではバンドを締めにくいのでつい素手で、うっかりピッケルを素手で、テントポールが外れにくいのでつい素手で、というシチュエーションがありますが、手に金属がピタッとくっついてしまい取るときに皮膚がはがれる…という事態になります。(氷に素手で触るとくっつくアレです)くれぐれも冬は素手にご用心!
▼足:冬は靴下を二枚履くことが良くあります。二枚履いて靴にぴったり過ぎると寒さでつま先がジンジンしてきたとき、つま先を動かせないので血行不良となって凍傷になりやすくなります。つま先を動かせるゆとりが必要です。
 また、冬山ではアイゼンを靴にしっかりと固定し丸一日行動することが良くあります。靴が弱いと足が締め付けられ、これまた血行不良となって凍傷の原因です。アイゼンバンドを付けても靴の型崩れしない冬山に適した良い靴を履いて下さい。(夏の軽アイゼンは別ですが)
▼顔:寒いうえに風が吹いているときはご用心(風速1mで体感気温−1℃)。痛い、ジンジンする前に、耳までかぶさる帽子・目出帽で、耳たぶ・頬・鼻を保護しましょう。

 寒さでジンジンする/しないは人それぞれですし、感覚は自分しか判りません。凍傷にならないための知識と行動を身に付けましょう。
 それでも凍傷になってしまったら…山はあきらめ即下山しましょう!!
 (研修担当 窪田記)