第1427例会 剣岳北方稜線
三田 徹
昨年5月、毛勝三山から見た剣岳の姿に憧れ、今年の春山は自然と北方稜線から剣岳を目指すことにした。
このコースは昨年夏も計画したが、梅雨明けが遅れたため途中敗退している。
いつもは仕事を終えて夜出発するのだが、今年は日程に余裕があったので、4/28(土)朝8時長崎を出発、日中に高速道路を走る。
連休初日とあって渋滞を予測したが、上りだったため混むこともなく快調に飛ばし、約11時間で上市着。飛行機で富山入りし、「アルプスの湯」で待機していた田尻さんを拾う。
24時間営業のマックスバリュで今夜の食材&ビールを買い込み、馬場島のキャンプ場で腹ごしらえする。
4/29(日)快晴。駐車場には何パーティか登山の準備をしており、我々も身支度を整えて出発する。
ブナクラ谷堰堤までは雪もなく、その先もしばらく夏道を辿ることができた。
暖冬の影響か例年に比べやはり雪が少ないようだ。ようやく雪渓となりアイゼンを装着する。ブナクラ谷では先行パーティがいたが、そのトレースはブナクラ乗越ではなく、赤谷山方向に付いている。
思案したが、春山ならではのルートをとることができるので、ショートカットし、そのトレースを辿る。
順調に高度を稼ぎ、稜線に出たと思ったら、まだ先にブナクラ乗越から赤谷山への稜線が見えてがっくりする。
気を取り直して登るが今度は雪も付かない藪の急斜面が現れ、先行していたパーティもそこで行き詰っていた。
左はがけで突破不能のため、右手の沢筋まで少し下り、その沢を登り返す。かなりの急斜面で雪崩の危険があるいやらしい登りが続き、ようやく2000m付近で稜線に合流する。
ショートカットして楽をしようとしたが、簡単にはいかなかった。先行パーティは藪の突破を試みたようだがどうなったんだろうか? 結局赤谷山頂では会わなかった。
ここから、ひと踏ん張りして赤谷山頂。去年の夏にあった目印の地蔵は雪の中、暖冬とはいえ、山の上は例年並みの積雪であった。
山頂からは360度のパノラマ。昨年毛勝から見た剣岳はますます大きくなり、圧倒的な存在感を示している。
テント設営にかかるが、雪が締まっておりブロックを切り出すのに一苦労する。雪というより氷の切り出し作業だ。
雪鋸係、スコップ係、積み上げ係を交代しながら「ホテル赤谷山」を建設。上半身、下半身ともクタクタになる。
夜はそれぞれ担ぎ上げてきたビール、焼酎で喉を潤し、疲れた体にガソリンを補給する。
4/30(月)快晴。いよいよ縦走開始。白萩山は黒部側をトラバースする。
赤ハゲ、白ハゲまでの稜線は雪壁や雪庇ありのいやらしい歩行が続き、精神的に疲れる。白ハゲから大窓への下りは急なハイマツ帯の斜面を懸垂下降で降りる。
都合25m(シングルロープ)1ピッチ、50m(ダブルロープ)3ピッチの計4ピッチ。風も弱く快晴だったため待ち時間も苦にならないが、吹かれていたら大変だろう。
大窓でしばし休憩。田尻博子さんから、明日以降は天気が崩れるとの情報もあり、相談の結果、本日中に大窓から馬場島へ下ることとする。携帯電話はこんな時便利だ。
折角なので、大窓の頭へ空身で登りその先を偵察する。
300mの急な登りは空身でも結構きつかったが、ピークから見る剣岳がますます迫力を増す。池平山や手強そうな小窓からの登りのルートを確認し、大窓の頭を後にする。
大窓からの下りは最初はルンルン、途中シリセードで下る。
ここは登りのルートでも使えるかなと思ったが、とんでもなかった。デブリの上は左右両岸からの落石多数で危険。雷岩付近では雪渓が崩落しており、通過不可能のため高巻するが、2時間近くかかってしまった。
雪渓に復帰し、もう難所はないかなと思っていたが、しばらくして右岸から左岸への渡渉地点が現れる。
ジャンケンでトップを決めザイルのフィックスを試みるが、水の冷たさと水量ですぐ中止する。雪渓を少し戻り、左岸から赤テープを頼りに赤谷尾根側の登山道ともいえない急斜面を辿ることとする。
途中、遂に日没となり、ヘッドランプを点け、かすかな踏み跡を頼りに慎重に下り、やっと林道に合流、朝5時過ぎから15時間余の行動時間を終え、夜8時30分馬場島に到着する。
一同ヘトヘト、恐るべし、大窓の下りであった。
予定では「アルプスの湯」で汗を流すつもりだったが、営業の時間は過ぎており、風呂はパス。皆早くビールを飲みたいので、再び上市のマックスバリュで宴会セットを買い込み、北陸道流杉PAを寝ぐらと決め、喉を潤し、腹を満たし爆睡する。
帰りも渋滞することなく車を転がし、前夜祭、後夜祭付きの山中1泊2日の山行を終える。
今回の山行は、天候悪化が予想されたため(実際、同時期に室堂から入山した伊達さんの話によると5月1日はミゾレだったらしい)、目標の剣岳までは行けなかったが、バリエーションともいえる登りや下りのルート、行動時間を考えると1泊2日とはとても思えない充実した山行となった。
北方稜線からの剣も年々近づき、いよいよ次は核心部。気持ちも新たに北方稜線からの剣登頂を目指したい。
コースタイム
4/28(土)7:50窪田邸発、19:50馬場島着
4/29(日)4:00起床、馬場島5:40⇒6:30砂防堤6:40⇒7:10アイゼン装着7:20⇒10:30藪地点、ルート探索⇒12:00標高1800m地点12:10⇒13:00稜線(2000m地点)13:15⇒14:20赤谷山山頂
5/1(月)3:10起床、赤谷山5:10⇒6:20赤ハゲ直下6:35⇒7:45白ハゲ、懸垂下降10:00大窓10:35⇒11:35大窓の頭12:00⇒12:45大窓13:05⇒14:10東仙人谷出合14:20⇒15:10雷岩⇒17:25高巻終了⇒17:30渡渉準備、18:05高巻に変更⇒18:45赤谷尾根縦走路に出会う⇒19:35林道出合19:55⇒20:32馬場島
参加者:会員5名
07.剱岳への道
吉村 克伸
今回の山行は夏でもアイゼン・ピッケル・ザイルが必要なルートなのでとにかく荷物を軽くした。
リュックが大きいとついつい入れてしまうので60Lにした。アイゼンは山に入れば着けて歩くのでリュックの外でもかまわない。
テルモスは500cc。アルコールは3日目早月小屋で買えばよい。外張は上にくくる。行動食が団体食料より多くなったので次回から考えよう。なんとなく入ってしまう。冬山は防寒着が多くなるので60Lは無理かもしれないがつめてみよう。
ブラクラ谷をつめると思ったが地図を読んで右の沢をつめる。先行パーティ(2人)が行っているので間違いないと思っていた。
早く稜線に出たいので早くなり、がんばって登ったがはるかむこうに稜線は見えた。がっかり。2人パーティもここは初めてと言った。気を取り直し少し下り、また登る。
夏以来また赤谷山(2258m)に着く。今日の行動はここまで。ホッとする。
2日目。今日も快晴。アイゼンをきかせ、快適に歩く。
アップザイレンを本番で数回するのは初めてである。大窓に着く。ここにも地蔵さんがあった。
大窓を下ったが高巻はきつかった。次は渡渉だったがあまりの冷たさに背中までもゾクゾクときたのでやめる。北鎌尾根の時は渡渉したのに。
赤テープまで引き返し、赤谷尾根へと取り付き、乗越で休む。若い頃、下松八重と二人重たい荷物を担ぎ間違った所です。28年前を思い出し、あやまる。
林道に出たところで休む。下山の日はあまり水分をとらないが、この時はもらって飲む。
車まで戻ってきて今山行を終る。後は旅館、流杉PAで飲む。ビール、2200mを越えてきたウイスキーはうまかった。来年は剱岳に立ちたいものだ。
終り。
大窓の頭で思ったこと
田尻 忍
ここからの眺めと、この場所を何と表現したら良いのだろう、太陽は中空にあり雲ひとつ無い、ピークの我々5人に五月の光と静寂が満たしている。
大窓の頭から見る剣は、立山から見る、大いなる山容、厳父たる雰囲気とは異なり、黒と白との鎧をまとった威風堂々たる剣だ、赤谷山より初めて見たその姿に息を飲んだ剣が一層の迫力となって迫ってくる。
今回、天候悪化の予想で断念せざるを得なかった北方稜線たる池ノ平山(2555m)、小窓尾根、剣の本峰が見え、岩稜と雪壁が複雑に入り組んでいる山稜は、次回に向けてルートを確認しようとする我々を「鎧触一蹴」する様にみえる。
余りの迫力に剣だけに目を奪われていたが東には黒部の渓谷を挟んで朝日岳、白馬岳、唐松岳、五竜岳さらに鹿島槍ヶ岳と後立山の峰々が稜線となりクッキリと見える。
今一度剣と対面しよう、時間も経ち大迫力の自縛から少しは解放されたかと思ったが鎧をまとった剣は少しも揺るぎはしない。
しかし此処で引き下がる訳には行かない、私には夢がある、この北方稜線の先にはマッターホルンとカラ・パタール、さらに30数年前未完のまま置き忘れた鹿島槍ヶ岳冬の東尾根、次こそ北方稜線を踏破し、夢をつなげなければ。
此処まで私を引き上げてくれた4人の仲間に感謝します。